まだ薄暗い朝7時に、山崎光司さん(33)と妻の綾子さん(30)の仕事が始まる。厚くかぶせられたワラをどけると、土からほんのり湯気が上がった。シャベルでひとすくいして現れたのは、鮮やかな黄色い豆を頭に乗せた長さ30センチの巨大モヤシ。「もやしっ子」にたとえられるような貧弱さは、みじんもない。
大鰐(おおわに)温泉でモヤシの栽培が始まったのは300年以上前。新鮮な野菜を手に入れにくい冬場の栄養源として重宝されてきた。いまは町の伝統野菜として、山崎さんら7戸の農家が昔ながらの手作業で作る。1日の出荷量はわずか700束。町外にはほとんど出回らないため、珍しがってわざわざ遠方から買いに来る人も多い。
スーパーでよく目にする水耕栽培のモヤシとは違い、ここでは温泉のパイプを張り巡らせた温かい土で育てられる。豆まき前の大豆をふやかすのも、水やりも洗浄もすべて温泉。連作障害を避けるために、収穫を終えた土は穴に埋め、そこにも温泉をかけておく。すると次の冬にはまた立派なモヤシを育てる土に生まれ変わるというから驚きだ。
いため物で味わう。シャキシャキ感はもとより歯ごたえがすごい。最近の研究で一般のものよりミネラルやカルシウムが豊富なことも分かっているという。ぎゅっとかみ締めると、ほんのり土の味がした。
骨太≠ネモヤシにあやかろうと温泉につかった。肌を刺す寒さに湯の温かさが心地よい。ぬくぬくした土ですくすくと育つモヤシ気分を満喫した。
文 加藤千絵
撮影 小松ひとみ