湯豆腐にも表情があるのか? とろける温泉湯豆腐で有名な嬉野温泉関係者からそう聞いて、半信半疑で何軒か店を回ってみた。
食事処志津の湯豆腐には豚肉、白菜、しめじ、春菊がたっぷり。それをしょうがじょうゆにつけて食べる。老舗(しにせ)旅館大正屋では基本的に朝食として出す。薬味は削り節、小ネギ、しょうが。こちらはゴマじょうゆで。酒を飲んだ翌朝の体にやさしそうだ。宗庵よこ長のは鰹節(かつおぶし)と小ネギを鍋に入れるだけ。湯汁に味がついてるのでそのままどうぞの説明通り、すくって食べてみる。とろけた豆腐と湯汁の熱さがじんわり広がり、体中の毛穴が一気に開く。
長崎市から宗庵よこ長に湯豆腐を食べにきた主婦吉田真知子さん(58)は「今回が2回目。正月に食べ過ぎて胃がもたれていたので湯豆腐がおなかにちょうどいい」。
なるほど、店によってタレや汁に工夫が施され、様々な味の表情をつくっている。
そして肝心なのが豆腐のとろけ具合。アルカリ性の湯で煮ると溶ける豆腐の性質を生かしているわけだが、湯豆腐を長年研究している嬉野温泉旅館組合理事長の山口保さん(66)によると、ここの泉源は炭酸水素ナトリウムと炭酸水素イオンのバランスが絶妙で、二つのバランスが少しでも崩れると、豆腐が溶けすぎたり、味が苦くなったりするのだそうだ。
嬉野は歓楽地というイメージが強かったが「若い人から中高年まで女性客が増えてきた」(山口さん)。文字通り、女性が喜ぶ温泉へと今、変身中なのである。
文 佐藤太郎
撮影 比田勝大直