日本三大文豪温泉というものがある。え、ありません?
だったら勝手に作るとして、まずは夏目漱石「坊っちゃん」を擁する道後温泉(愛媛県)。続いて川端康成「伊豆の踊子」の湯ケ島温泉(静岡県)。そしてもちろん志賀直哉「城の崎にて」の城崎温泉を忘れるわけにはいかない。
というわけで、バッグに文庫本を放り込んで車中へ。「城の崎にて」を読むのは中学生以来かな。
城崎温泉は奈良時代に発見されたといわれ、1300年の歴史を誇る。大谿(おおたに)川沿いに柳の並木。シックな三階建ての旅館が続く町並みは、昭和というより大正の雰囲気が漂う。「端正」という言葉が似合う湯の町だ。
七カ所ある外湯巡りが楽しい。お湯はやや熱め。驚くほど透き通っている。透明すぎて腹のたるみがモロに見えるのが情けない。
ここには幕末のころ、京都を追われた長州の志士桂小五郎が潜伏したこともあるそうだ。後に夫人となった京・三本木の名妓(めいぎ)幾松といっしょだった。桂サンの腹はたるんでいなかったろう、と思う。
さすがに文豪温泉。観光協会が毎年、俳句と短歌のコンクールを行っている(今年度分は1月19日で締め切り)。テーマは温泉、浴衣、柳、酒、コウノトリなどいろいろ用意されているが、冬の城崎ならカニと雪は外せない。
3万円の賞金目当てに苦吟した渾身(こんしん)の一句……が、これだ。
かに鍋や
ふぶきのさきの日本海
ライター 宮本貢
撮影 塚原紘