花の便りを聞けばじっとしていられない。はや、桜まつりたけなわの河津にやってきた。
河津川沿いの並木道は約4キロ。河口から上流方向へ歩く。早咲きで名高い河津桜は、ピンクも濃く大輪。手の届く高さに咲いていて、枝のメジロもすぐ目の前。2羽3羽と蜜をついばんでいる。根元の土手には菜の花。快晴の空に朱塗りの橋が映える。
沿道には提灯(ちょうちん)が揺れ、露店約150店が並ぶ。山海の幸に、桜づくしの品々。まんじゅう、ようかん、ソフトクリーム、そば、うどん、かまぼこ……。花も団子も捨てがたい。桜の塩漬けを買い求め、甘酒に入れてみる。芳香が立ち上り、麹(こうじ)の甘さに塩気がいい。
約20年ぶりに復活した峰温泉大噴湯を見に行く。木の櫓(やぐら)から地上30メートル、シューッと湯柱。自噴の迫力。湯気と湯の香が立ちこめる。
町役場近くの豊泉橋のたもと「豊泉の足湯処」でひと休み。東京から来た40代の夫妻は「本州で最初に花見ができる」と、ワインとチーズを下げて踊り子号に乗ったという。お湯が熱めで、並んで浸した3人の足先もくっきり桜色。いつしか9人で、「場所で温度が違う」「あなた、ズボンがぬれてる」「今年は花が遅い」と、にぎやかに足湯端会議に。
こうして2月に花見ができるのも、河津桜の発見者・故飯田勝美さんのお陰と、原木がある飯田家を訪ねる。息子の典延(すけのぶ)さん(74)は、「父が偶然見つけた桜が皆さんに愛されて、人口8000人の小さな町に100万もの人が来てくれることが何よりありがたい」。
日も西に傾いたころ、町営の「踊り子温泉会館」に着いた。平日とあって露天風呂は貸し切り状態、しかも花見湯。眼福とお湯のぬくもりで、一日歩いた疲れがじわじわほどけた。
文 佐藤貴美枝
撮影 上田頴人