「すごい湯がなきゃ、こんな山奥まで来ないよねえ」。雪上車の中、隣の女性がつぶやいた。田沢湖から北へ約45キロ。豪雪と、それを上塗りするように立ち上る湯煙と噴煙で視界は真っ白だ。
玉川温泉は、屈指の酸性泉で知られる湯治の地。しおりには「飲泉は、約15倍に水で薄めて飲み、その後は必ずうがいを」とある。源泉を口に含むと「歯が溶けてしまう」からだ。部屋にテレビがないのは、空気中も酸性濃度が高いため、1年ほどで壊れてしまうから。それぐらい強い。
「個性的な湯なので合わない方もいます。長湯は禁物。まずはお試しください」。営業副支配人の山田茂雄さん(44)は言う。
早速、ヒバ造りの大浴場へ。11種の浴槽には、それぞれに「源泉50%の湯」などと記されている。「かけ流し」「加水・加温なし」を売りにする温泉が多い中、ここでは堂々の「水割り」なのだ。一番広い「源泉」100%、39度の湯にそろりと体を浸す。ピリピリと刺すような刺激。小指で少しなめるとレモン水のような味がした。心得を守り約3分。ストレス解消に「浸頭湯」、減量を狙い「箱蒸し湯」などめぐり、かけ湯で仕上げた。
翌朝6時。ゴザを抱えて、もう一つの名物である「岩盤浴」へ。硫黄のにおいが覆う中、除雪された遊歩道を長靴で行く。ゴボゴボと98度の湯がわき出る「大噴(おおぶき)」の先に目指すテントが見える。すでに中は満員状態。「ここ、あたたかいよ」。ベテランさんに促され、岩肌に寝ころぶ。目を閉じて、とてつもない自然のパワーを体感した。
文 猪俣千恵
撮影 小松ひとみ