鳥取県中部の三徳山(みとくさん)に「奇跡の建築」があると聞き、胸が高鳴った。その名も国宝「投入(なげいれ)堂」。ふもとで造ったお堂を法力で洞穴に投げ入れた、との伝説もあるが、真相は謎のまま。たどり着く手段はただ一つ。手つかずの自然が待ち受ける「修行の道」を行くよりほかない。
三徳山は修験道の行場として栄えた。入山時は服装を厳しくチェックされ、革靴やサンダルは滑りにくいわらじに履き替えねばならない。輪袈裟(わげさ)を肩からかければ出発だ。
中腹にあるお堂までは約700メートル、標高差は200メートル。「かずら坂」「クサリ坂」「馬の背」「牛の背」と呼ばれる難所が待つ。木の根にしがみつき、切り立つ岩をはい上がり、息を切らして無心によじ登る。まさに「修行」である。
入山から1時間。巨岩を回ったところで、神秘的な光景が目に飛び込んだ。洞穴にぴたりと張り付き、山と一体化したお堂の存在感は圧巻だ。
建立は平安時代後期。急斜面の岩に垂直に下りた細い柱が、お堂を支える。北向きの洞穴にあるため、直射日光や雨風から守られてきた。千年を超える月日を耐えたその姿を目に焼き付けようと、しばしたたずんだ。
疲れた登山客を迎えるのは、三徳山の参拝を終えた源義朝の家来が発見したという三朝(みささ)温泉。世界有数のラジウム含有量を誇る。熱めの湯につかると、「一日修行者」の張りつめていた気持ちがほぐれていった。
文 蒔苗沙都子