男体山(なんたいさん)は東照宮と並ぶ日光の看板だ、とぼくは思っている。ぼくの小学校の修学旅行は日光。いまだに覚えているのは、左甚五郎の眠り猫と、中禅寺湖畔にスックとそびえる男体山だ。
二荒山(ふたらさん)という別称もある。二荒がニコウと音読みされて日光という地名が誕生したという説もあるくらいで、日光の象徴といってもいい。
東京・浅草から日光に向かう電車の車窓から家並みが消えて、森や畑が後ろへと飛び去るようになったころ、ドーンと大きな山並みが視界に飛び込んでくる。男体山を盟主とする表日光連山だ。大地に深く根を張って微動だにしない存在は、人のありようの手本のようだ。
昨年9月、ぼくたち一行14人は、男体山を目指して快速電車に乗った。車窓から見える連山を指さしながら説明する。
「左から男体山、大真名子山(おおまなごさん)、小真名子山(こまなごさん)、女峰山(にょほうさん)。太郎山もあってファミリーを構成しています」
やがて電車は東武日光駅に滑り込む。男体山の日帰り登山はちょっときつい。前日に日光に入っておきたい。この日は駅から直接行けて人気が高い鳴虫山(なきむしやま)に登り、駅前のビジネスホテルに1泊した。
翌日は一番バスに乗る。いろは坂を上りきり、中禅寺湖畔を少し走ると登山口でもある二荒山神社中宮祠に到着する。さあ出発しようと思ったら、同行の小川進治さんがおもむろに口を開いた。
「実は今日の男体山で百名山登頂を達成するんです」
男体山は深田久弥さんが選んだ日本百名山の一座である。小川さんは数年前に九十九山登り終え、たまたま残ったのが男体山。東京に近くて登りやすいので、とっておいたとか。ぼくより1年先輩の1944年生まれ。還暦を目前に、区切りをつけようと参加してくれた。
中宮祠の標高が1280メートルだから山頂までの高度差は約1200メートル。登りっぱなしというのがちょっとつらいが、歩幅を小さくゆっくり足を持ち上げていけば、5時間後に山頂は足下に来る。
「おめでとう」と小川さんと握手する。のんびり休憩してから下山にかかる。湖畔まで約3時間。中禅寺温泉で汗を流し、ビールを飲む。百名山完登と重なったので、ことのほかうまかった。
※男体山の標高は10月13日現在です。