丹沢は神奈川県の中央より西北に寄ったあたり、東西約40キロ、南北約20キロの山塊で、蛭ケ岳(ひるがたけ)はその最高峰である。関東大震災で山が崩れ、尾根筋にガレ場、谷筋に数多くの滝が出来た。
滝をよじ登り、尾根筋直下のガレ場を抜けて山頂に立つ「沢登り」は有効なトレーニングになる。山登りを始めた高校生の頃、横浜に住んでいたこともあって、ぼくはよく丹沢に通った。いつの日かヒマラヤの高峰に立とうという若者で、土曜の夜の小田急線渋沢駅はあふれんばかりだった。60年代のガイドブックに丹沢は「東都岳人の揺籃(ようらん)の地である」と必ず書かれていた。
初心者は水無川や四十八瀬川(しじゅうはっせがわ)、腕に自信のある者は難度の高い玄倉川(くろくらがわ)へ出かけていく。岳友とザイルを結び合うときの緊張感、滝を無事登り切った時の達成感、ザイルを解くときの解放感。山頂に立ち、握手を交わしたときの充実感は山がやめられなくなる要因であった。
尾根歩きと異なり、滝やガレ場を登るのだから事故も多かった。魔の山として知られる谷川岳に次いで事故の件数が多かったのが丹沢だったと記憶する。
現在のぼくの登山はリスクの少ない尾根歩きが中心。丹沢は山塊としては小さいが、アップダウンに富み、尾根歩きといえどちょっとハードで面白い。丹沢が登れれば南アルプスも大丈夫といわれるくらい、よきトレーニングの場となる。
超有名な温泉は少ないが、中川川流域には信玄の隠し湯として知られる中川温泉がある。東京方面から訪れやすい山塊の東側には広沢寺(こうたくじ)温泉、鶴巻温泉などがあり、鐘ケ岳、白山、弘法山など日だまりハイクの楽しめる低山がそろっている。
蛭ケ岳に立つには、大倉尾根を登って塔ノ岳、丹沢山を越える主脈縦走コースがおすすめだ。登山口の大倉から塔ノ岳まで約5時間。1日目は山頂にある尊仏山荘に泊まる。2日目は蛭ケ岳から先、姫次(ひめつぐ)、焼山(やけやま)と東海自然歩道を縦走し、約10時間で西野々へ下る。
塔ノ岳からは晴れていれば大島が見える。富士山も見える。夜になると足下、秦野盆地の夜景が美しい。丹沢山は落ち着いた雰囲気の頂上。蛭ケ岳は頭をフンと突き出して最高峰であることを誇示している。