栗駒山とはやさしい名前の山だなと思う。「くりこまやま」と声に出してみるとやさしさが心に響いてくる。
5月中・下旬の頃、山頂西側に飛翔(ひしょう)する天馬の雪形が浮かびあがるのが、山名の由来だという。雪形は、春、雪が解けて山肌が露出する黒い部分と残雪の白い部分が組み合わさって描く模様。ふもとの人々の農作業の目安にもなる。
栗駒山は宮城県の北辺に位置している。北面の東側は岩手県、西側は秋田県だ。標高1627メートル、冬は豪雪に埋もれ、残雪期には山スキーヤーでにぎわう。雪は盛夏まで残って、その周辺は美しいお花畑となり、登山者の目を楽しませてくれる。また、南東のふもとに駒ノ湯、南に温湯(ぬるや)、湯ノ倉温泉、南西に湯浜温泉、北側には須川温泉と、山麓(さんろく)には、ぐるりと温泉をめぐらしている。栗駒山は、東北を代表する名山の一つといっていい。登山コースも多い。
ぼくが初めて栗駒山の頂に立ったのは、二十数年前。南東面を流下するドゾウ沢からであった。30代前半のぼくは、沢登りや岩登りばかりで、一般道登山コースは下山の時に利用するだけだった。
2回目の栗駒山は、その後、しばらくしてからだった。東面を流下する産女川(うぶすめがわ)の沢登りだった。石がゴロゴロと河原状にひろがっている地形をゴーロという。ドゾウ沢はゴーロが続く単調な沢であったが、産女川はナメ滝が連続する美しい沢で、沢登りの好きな登山者には手応えのある面白い沢であった。ナメ滝というのは一枚岩の上を水が滑るように落ちている滝のこと。産女川は、後に森林生態系保護地域になったため、現在では入山規制されている。
山頂に立ったぼくたちは、湯浜温泉に下りた後、再び沢を遡って、また栗駒山の頂に。季節は秋。目の前の秣岳(まぐさだけ)が深紅に燃えていた様は、いまでもマブタに浮かんでくる。
バスで、いわかがみ平まで上がって中央コースを登れば、山頂までのんびり2時間、北面の須川温泉からなら2時間30分だ。下りはそれぞれ1時間30分、2時間を見込んでおく。歩き足りないという方には新湯からのコース、湯浜温泉からのコースなどがお薦めだ。