富士山(ふじさん)は、名実共に日本一の山である。標高3776メートル、日本人の心の拠(よ)り所であり、だれもが一度は登ってみたいと思っている山だろう。私も、ほかの山の山頂に立つたびに、富士山を探してしまう。富士山が見えるとすごくうれしい。
富士山は眺める山であって登る山ではないという人がいる。だが、登ることで、3776メートルというスケールを、身体全体で受けとめることができる。
ぼくが初めて登ったのは1962年、高校3年の夏だった。父と妹と3人で登った思い出深い山である。
富士山の代表的な登山口は五つ。吉田口、須走口、御殿場口、富士宮口、河口湖口とである。多くの登山者が利用する河口湖口は、6合目で吉田口登山道に合流する。河口湖口5合目まで、精進湖畔から精進口登山道がのびている。
夕方、河口湖駅前からバスで5合目へ。懐中電灯を手に登り、夜明け前の山頂に立った。火山礫(れき)の斜面に腰を下ろしてご来光を待つ。足下は雲海に埋まっているようだが、まっ暗。夜明けが近づくにつれ、雲海が濃紺に、濃紺が紫になり、東の空に朱色が広がったと思うと、火の玉の頭がポッカリと出た。雲海はみるみるオレンジ色に染まり、火の玉はあっという間にまぶしい太陽になった。
ぼくたちはホッとタメ息をついてから立ち上がり、お鉢巡りをして剣ケ峯にも立ち、砂走りを須走口へと駆け下った。
山好きの皆さんに富士登山をお薦めすると、2人に1人から「高山病が心配で」という言葉が返ってくる。
3776メートルでの大気中の酸素レベルは0メートルでの63%。高山病になっても不思議でない。毎夏、多くの登山者が頭痛、嘔吐(おうと)感、倦怠(けんたい)感に負けて頂上をあきらめている。ぼくが、高山病が心配という方にお薦めしているのが、富士登山スリーデーズプランである。ヒマラヤ登山のように高度順化を組み込んでの攻略法なのだ。
どの登山口も5合目まで車で上がれるから、1日目は7合目まで登り、5合目に下って1泊。2日目に山頂に立ち、8合目に下って1泊。3日目に下山するものだ。今夏、新日本百名山チャレンジの50山目として富士山に登ったが、このプランを採用したため、全員がスムーズに山頂に立つことができた。
=おわり