減反で使われなくなった田んぼでも、昔の緑の面影を残しているところは多い。私の知っているその一つには、今ではセリが一面に生い茂っている。周辺に張り巡らされた水路から今でも水が少しずつ流れ込み、まるで湿地のように地面を潤しているからだ。梅雨の時期になれば水はかさを増し、そばにある小さなため池からもあふれ出す。
夜、遠くに農家の明かりが二つ三つともるころ、周辺に青い光が飛ぶのを見た。ホタルである。水路を住み家にしているのだろう、無数の淡い光が波の上を漂うように静かに舞っていた。風に流されるまま、雑木林の木の葉にたどり着きとどまって光るものもいる。
目が暗さに慣れるにつれ、草の根元でひそかに光るホタルの存在もわかるようになった。水路沿いに列をなしていたのだ。すごい数だ。よほどここの水が気に入っているのだろう。たしか、山のわき水をじかに引いて来ているはずだから。減反が早かったため、ここの水路にはコンクリートも張られていないし、農薬とも無縁なのだった。
周辺の空気までも浄化してしまうようなホタルの光。全身から汗が滴り落ちた昼の労働を忘れさせ、身も心も癒やされる、穏やかな夜である。
昼はセリを一部分刈り取りおかずの足しにした。その時できた泥たまりに、翌日意外なお客さんが現れた。ツバメの夫婦である。彼らは泥の上に舞い降りると、忙しく首を左右に動かした。くちばしの先で、まるで左官職人がこてで壁土をこねるような動作を繰り返す。そのたび黒い頭のてっぺんが日の光を反射して虹色に輝いた。つぶらな瞳、顔から首にかけての赤、胸の白、翼と背中の黒、スマートな体つき。こんなにそばで見たことはこれまで無かったが、ツバメという鳥は、かなり美しい。
やがて練った泥はくちばしで農家の軒先に運ばれ、私たちがおやつを食べるころ、巣づくりが始まっていた。
自分の生活の傍らに、いつも何らかの生き物とのかかわりがある。24時間必ずいてくれる。なんとうれしいことだろう。けっして人間の独り善がりにならないよう気をつけながら、これからも彼らの姿を探し探し生きていたい。
(タレント・エッセイスト)