ガーコンを借りに、地元の農家に行った。そこには達者なおばあちゃんがいて、ガーコン貸して下さい!と玄関から声をかけると、どうぞお、とよく通る声で返事が聞こえた。しばらくして、お日様をいっぱい吸ったピカピカのほっぺたのおばあちゃんが家の奥から現れた。唇にはきちんと口紅がさしてある。御年88歳。まだまだ色気を失っていない。ちなみにこの人、好みの男性は年上の人だそうな。
あらためて挨拶(あいさつ)すると、久しぶりだねえ、と笑ってくれた。だがその後に、ゆみ子と付いた。おばあちゃん、それは私の名前じゃありません。それじゃあ良子かい?ちがいますって、私は美保ちゃんですって。美保かい。うちにそんな名前の孫いたっけなあ?
どうやら私を孫と勘違いしているらしい。このおばあちゃん、オサマ・ビンラディンなんて名前はちゃんと覚えている。だから決してボケているわけではない。名前と顔の記憶回路がちょびっとズレているだけだ。
ところでガーコンである。味噌(みそ)作りのために植えた大豆を刈り取った後、さやから豆をとり出すのに使う農機具のことをこう呼ぶ。たぶんこの地方だけの呼び方だろう。本当の名前は誰も知らない。
外見は、大きなドラムの周りにへの字形の金属がたくさんついていて、ドラムを回転させながらその金属に豆を当てるとビビビビッ、とさやが砕けたり飛び散ったりしながら大豆と分けられるというしくみ。だが、さやが飛び散る時に大豆まで飛び散ってしまうので、上からスッポリと、まるでテントのようにビニールシートで覆うのを忘れてはいけない。さもないと3メートル先まで大豆を拾いに走ることになる。動力は足踏みミシンと同じ。下に付いた板を足で踏んづけることでベルトを伝わってドラムに回転が与えられる。踏み込むタイミングがズレるとうまく打力がつかず、ドラムが反転してしまうところがむずかしい。かといってあまり強く踏むと板がこわれてしまう、古くて味わいのある(?)道具なのである。
手にケガをしないよう気をつけてなあ、ゆみ子、とおばあちゃんが注意してくれた。その日、私はとうとう最後までゆみ子だった。
(タレント・エッセイスト)