炭焼き用の竹を取る藪(やぶ)がある。だいぶ茂り過ぎていたので、日差しを良くするため、よけいに何本か切っておいた。これで来年はたくさんタケノコが生えてくるぞ。ちょっと細身のところを摘んで、炭火で焼いて味噌(みそ)を付けてかじりつく。熱々のウマウマである。
切り出した竹はすぐ側(そば)の草むらに並べた。鉈(なた)でカンカンと枝を払っているうちに、その音と音のあいまにキュンキュンと何やら生き物らしい声が聞こえることに気づいた。それは横たえられた竹の下からするようだ。うっかり小鳥の巣をつぶしてしまったか? 慌てて居場所を探すと、どうも声は移動しているように思えた。耳をレーダーにしてその後を追跡するうち、私の目に入ったのは、なんとも愛らしい野ネズミの姿だった。
体は鶉(うずら)の卵を少し大きくしたほど。いっちょ前に立派な茶色い毛皮をしている。私が近づくと、懸命に枯れ草を乗り越えて逃げる逃げる。だが体が小さいので、ちょっとしたギャップでも後ろ向きにでんぐり返りになってしまうのだった。やがて草の下にジッと身を潜めた所をそっと捕まえてみた。鼻の頭がピンク色だ。指はすっと細く長い爪(つめ)が生えている。私の掌(てのひら)に楽々と10匹は乗りそうなほど小さな体、そこからよく動くしっぽが生えていた。この寒空の下、いきなり住処(すみか)を追われてしまい凍えているのではないかと両手で温めてやると、すぐにスヤスヤ眠ってしまった。意外と危機感が無い奴かもしれない−−。
声は他の場所からも聞こえてきた。きっと家族でこの草むらに住んでいたのだろう。申し訳ないことをしてしまった。私は、いわむらかずおさんの絵本「14ひきのひっこし」を思い出していた。14匹の野ネズミの家族が、自然破壊によって住処を追われ引っ越しをする話。まさか自分がそんなことをやってしまうとは思ってもみなかったので、正直ショックだった。急いで、だが慎重に竹を移動し、ネズミたちの声がする場所と作業現場の境目に置いた。竹より内に立ち入り禁止!これで少しはネズミを助けたことになっただろうか?数えるとネズミたちは5、6匹はいたようだった。最後に彼らの姿を見たのは、小高い草むらを乗り越えていく後ろ姿だった−−。
(タレント・エッセイスト)