ミュー君(ブチ猫♂)に恋の季節がやってきて、ガールフレンドのフィーちゃん(ブチ猫♀)は一日中追いかけられっぱなしだ。食卓から戸棚、ダッと飛んで床からテレビと家の中はサーキットと化している。
私と両親は、左手でみそ汁のお椀(わん)やしょうゆさし、湯飲みをそれぞれ守りながら淡々と食事を続けている。わが家の春の光景である。
冬眠していたクサガメのヨッチー。窓から差し込む暖かな日の光にさそわれて、新聞紙の寝床から5カ月ぶりに姿をあらわした。そして池で5カ月ぶりのフンをした。彼女にも春の目覚めが訪れたのだった。
ポカポカ陽気はしばらく続き、ああ、これで春になるのだなあ、と喜んだのもつかのま、なんと今朝起きてカーテンを開けたら、窓の外は真っ白な冬景色だった! 私の頭の中も一瞬真っ白。これじゃあ昨晩用意しておいた服ではとても寒くてかなわない。一度しまったロングコート、また引っぱり出さなくては。クローゼットの中で格闘が始まる。早くしないと新幹線に乗り遅れてしまうのだ。今日は生放送だから、遅刻したらシャレにならない。
ところで東京の気温はどうだろう。こっちみたいに寒いのか? いや、今までもそう思って厚着して行って、何度汗だくになったことか。栃木と東京では季節が一つ分ズレている日もあるのだ。まして今回は4日間の滞在。下手にロングコートなど着て行ったら、春めく東京の町中を一人だけ冬のまま歩かねばならなくなる。
いろいろ考えているうち、あるアイデアがひらめいた。テレビ番組用に用意した服を見直すと、全部で4着。それを、上半身に着る物は薄手でそでのないものから順番に、下は丈の短いものから順番に全部着ちゃったもんねー! これなら他人からは1着しか着てないように見えても、実は重ね着であったかいのだ。ジャケットだけでも余裕で栃木の寒さをクリアできるぞ。もちろん東京で、いかなる気候にも対応できるし、着ていれば、スーツケースにしまっておくよりもシワになりにくい。ちょっと太って見えるのはご愛嬌(あいきょう)だ。
田舎で暮らしながら仕事をするには、時にこんな知恵も必要なのである。
(タレント・エッセイスト)