久しぶりで、テレビ番組のロケ撮影に出た。数日前からポカポカ陽気が続いていたので、すっかり春気分になり、衣装もそのつもりでかなり薄手なものを選んだのだが。当日は晴れはしたものの、朝から北風が吹きつける寒さ。ブラウスにカーディガンをはおったくらいではとても追いつかない。毛糸のパンツとババシャツが恋しくてたまらない一日となってしまった。
家に帰った翌日、まだ凍えている体を芯まで温めたくて、玄関に荷物をほうり投げ温泉へ直行。幸い中には誰もおらず、私一人の貸し切り風呂になった。あ〜、極楽極楽。寒さで縮んでしまった手足を思い切り伸ばし、他人がいないのをいいことに、泳ぐまねなどしてお湯しぶきを盛大にあげた後は、天井をながめながらうたた寝を楽しんだ。
時折目を開けると、白い湯気の向こうに太い丸太のはりがいくつも組み合わさっているのがぼんやりと見え、更にその上の方は、もう暗くてわからないのだった。冷たい水滴が肩に、背中に落ちてくる。それがまた、たまらなく気持ちい〜い。
しばらく一人湯を楽しんでいると、「こんばんは」という声がして顔みしりの奥さんが入ってきた。私がダラ〜ッと長くなっているところを見つけて彼女が言った。「何だかヘビみたいね。そう言えばおとといの夜、ここにヘビの抜け殻が落ちてたのよ」
ヘビの抜け殻? 私はいっぺんに目が覚めてしまった。だって、抜け殻があったということは、ここにヘビがいたということではないか。抜け殻は一人で歩いて来ないもの。
時々あるのだ。急に陽気が良くなった日、ヘビやカエルが春と勘違いして冬眠していた穴から出て来てしまうことが。だが寒さがぶり返した後、彼らは一体どうするのだろう?
再び私は天井に目をやった。昨日、凍えるような経験をした私には、今ならヘビの気持ちがよくわかる気がした。そうだ。温泉の熱は湯気となって天井へ上る。その暖かさと湿気に守られて、あの太いはりの上で、もしかしたら今もヘビはのんびりしているかもしれないのだ。何も知らずにうたた寝していた私のヌードを眺めながら。ゾーッ。
(タレント・エッセイスト)