吉川晃司のライブビデオを作っている。2月1日、武道館。満員のファンを挑発し、揺さぶる男の姿を15台のキャメラで追いかけた。デビュー20周年を締めくくるお祭りだった。
仮の編集を見た吉川晃司から、ひとつだけ注文が出た。静かに一言、「完全に、ブッ壊してくれ」。
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……かっこいい。普通の人じゃ言えない、いや言ってはならないセリフだ。数年前、彼の中で十数年もの間、禁じてきた映画への出演を依頼するため話し合いの場を求めた。
「一対一なら会います」
大人の会話は不要ってわけだ。本音が聞ければそれでいい。そして続けた。「俺(おれ)、役者じゃないから役者みたいな芝居はできないよ。それでもいいなら会いましょう」
……はぁ。私も一生に一度ぐらい言ってみたいよ、そんなセリフ。かくして、彼の行きつけの店で待ち合わせた。意外なことに、寿司(すし)屋だった。「俺、魚がまずいと許せないんですよ」
だ、誰を許せないんだろうと思いながらも私は映画の話を始めた。しかし、彼は魚の話ばかり。曰(いわ)く、気が向けば築地に買い出し、自分でさばくこともある。彼は続けた。「少し努力すればもっと美味(おい)しい魚を、いや本来魚はもっと美味しいものなんだ。殺生する以上努力しなきゃ。それが礼儀だと思う……。俺のオヤジ、料理人なんですよ」
父親を誇りに思い、その思いを素直に伝えられる感性。失われつつある日本人の美しさを見た。しかし、どうやら映画にはあまり興味がないようだ。こちらの話に一向に乗ってこない。あきらめるしかないか。
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そして別れ際、吉川晃司がポツリと言った。「よかったらもう一軒行きませんか。それから、俺、芝居へただけど、……よろしく」
だから、かっこよすぎるって言ってるでしょ。