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2005.11.2(水)更新  日本音紀行 もうひとつの風景

柴又 (東京都葛飾区)

五感にしみる人情の味
七五三参りの草履の音が参道に和みをます。団子屋さんのおばちゃんが「おめでとう」と気さくに声をかける。左後ろは帝釈天=撮影・上田頴人

【交通】東京駅からJR山手線日暮里駅で京成本線に乗り換え、京成高砂駅経由で京成金町線柴又駅下車。車は首都高速中央環状線四つ木インターから約30分。
 《わたくし、生まれも育ちも葛飾柴又です》。映画「男はつらいよ」の主人公、フーテンの寅さんの口上であまりにも有名なこの街。彼が永遠に旅立って、はや十年目になる。

 《帝釈天(たいしゃくてん)で産湯を使い−−》。その帝釈天参道へ入る。「いらっしゃい、いらっしゃ〜い」。寅さんの実家のモデルになったとされる団子屋さんから、呼び込みというには優しげなおばちゃんの声。てんぷらを揚げる切れの良い音が参道に大きく響く。向かいでは職人さん2人が世間話をしながら、網の上でコトンコトンとせんべいをひっくりかえす。

 漂ってくるおいしそうな音。思わず寄り道したくなる。チリンと自転車が通り抜けていき、映画のシーンそのもののような光景だ。「今日もお参り?」と声をかけてくれたのは以前立ち寄った佃煮(つくだに)屋さん。音に誘われ、声に呼ばれて、柴又との心の距離がどんどん近くなってくる。

 トコトントコトン、トットコトットコ……。職人さん2人が呼吸を合わせながら、大きな白木のまな板で(あめ)切りだ。これが聞こえたら帝釈天はすぐそこ。中に入ると、お地蔵さんをたわしで擦(こす)る善男善女の姿。写真を撮っていると「こっちのほうが場所がいいよ」と見ず知らずの人に声をかけられる。そして気がつく。そうか、映画の世界は虚構じゃなく、柴又には本物の人情がある、だから寅さんが生まれたんだと。

 訪れる者を誰でも温かく迎え入れ、そっと送り出してくれる。粋なふれあいが生み出すにぎわいが、次の寅さんを連れてくるかも。そんな気にさせられる。

(横内陽子)


 ◆葛飾柴又寅さん記念館

 映画「男はつらいよ」主演の渥美清さんが亡くなった翌97年に開館。テキ屋稼業で各地を渡り歩く車寅次郎の人情喜劇、全48作の名場面などを映像と資料で紹介。葛飾区柴又6丁目、午前9時半〜午後4時半、第4(月)((祝)の場合は直後の平日)休み。500円、小中学生300円、65歳以上400円。問い合わせは03・3657・3455。
 
 ◆帝釈天参道 味めぐり

「大和家」  屋台売りの名残を残し、店先で天ぷらを揚げる「大和家」(TEL03・3657・6492、午前11時〜午後4時、不定休)は参道入り口すぐ。エビやキス、アナゴなど、素材は江戸前。サクサクと軽い歯ざわりとゴマ油の香ばしさが特徴の天丼は並998円から=写真。べらんめえ口調で気さくな5代目、6代目主人が迎える。ゆったりするなら2時以降がおすすめ。手前には、参道を挟んで喫茶店と土産店を構える和菓子店「木屋老舗(ろうほ)」(問い合わせは03・3657・3136、午前7時〜午後6時)。名物は風味豊かなヨモギを使い、毎朝手作りする草だんご。土産用15個入り630円、店内は5個300円(茶付き)。
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