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2005.12.14(水)更新  日本音紀行 もうひとつの風景

イギリス海岸 (岩手県花巻市)

川面に満ちる賢治の世界
朝日が昇ると泥岩がくっきり見え、北上川の流れがかすかな音をたて波紋を広げていく。猿ケ石川の合流付近には川霧が出ていた(撮影・上田頴人)。

【交通】イギリス海岸へは、JR花巻駅から徒歩約20分、東北新幹線・新花巻駅からタクシー約15分。車は、東北道花巻南インターから約15分。
 大河特有の、かすかにごうごうという単調な響きと、岸辺にポチャリと寄せる波。二つの音色が遠近法のように風景を彩る。

 北上川と猿ケ石川が合流するこの付近は、詩人の宮沢賢治が「イギリス海岸」と名付けた。泥岩が乾いて白く見えた様を、イギリスの海岸になぞらえたのが由来だ。

 川床の泥岩が水面すれすれに顔を出しているあたりで、勢いのある流れは、テーブルの上にあふれた水のようにたゆたい始める。岸に着く頃にはゆるやかな波となるのだ。大河の音をバグパイプの通奏低音とすれば、その波音は無限に変幻する旋律のよう。風が吹けば、さらに装飾音符がついて、今度は幼子が何かを伝えようと懸命にしゃべっているようにも聞こえる。

 現地に立って感じる音を、賢治の表現を借りて描写してみる。足もとの波音は、童話『やまなし』の中でカニの兄弟が耳にした「かぷかぷ」という笑い声のように聞こえるし、向こう岸の木々は『注文の多い料理店』のように「ごとんごとん」と鳴っている。独特の言葉遣いは、なるほど、五感を開いて初めて納得がいくものだった。

 花巻農学校の教師として、地質学の知識もあった賢治は、泥岩を見て太古ここが海だった頃の光景や生物の姿を見、そこに満ちていた響きをはっきりと聞いたに違いない。

 今、泥岩は気まぐれに顔を出すだけで、川の流れも少々せわしくなった。上流に出来たダムのせいともいう。賢治なら、どんな心象風景をスケッチしただろうか。

(横内陽子)


 ◆賢治の世界を見る・知る・遊ぶ

 新花巻駅付近には、バスで数分のところに親子で楽しめる名所が集まっている。

 【宮沢賢治記念館】
 信仰、科学、宇宙、農業など、賢治がいそしんだ活動をテーマごとに紹介。愛用のチェロや自筆手帳など貴重な品を展示。ビデオ映像、図書資料もそろう。バス停から徒歩約10分。問い合わせは同館(0198・31・2319)。

 【宮沢賢治童話村】
  ユニークな空間で映像とともに賢治の世界を体験できる「賢治の学校」ほか、童話に登場する動物や石などについて学べる「賢治の教室」なども。問い合わせは同館(0198・31・2211)。
  いずれも開館時間は午前8時半〜午後4時半。入館料は350円。小・中学生150円、高・大学生250円。28日〜1月1日は休館。

 
 ◆銀河鉄道をしのぶ旅
 「銀河鉄道の夜」のモデルになったとされる岩手軽便鉄道(現JR釜石線)。半円アーチを描くレトロな「めがね橋」へは釜石線・宮守駅下車徒歩5分。16日〜1月15日の午後5時〜10時(22日〜1月4日は5時〜深夜1時)にライトアップ。花巻、新花巻両駅では賢治にちなむ駅弁各種を販売。
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