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2005.12.21(水)更新  日本音紀行 もうひとつの風景

因州和紙 (鳥取県)

「誇り」の音色、小気味よく
澄んだ水音が窓越しに聞こえる。濃緑の色染め雲竜紙を漉く。池原和樹さん(50)は都会の勤めをやめて家業を継いだ=鳥取市青谷町で(撮影・塚原紘)。

【交通】鳥取駅から旧青谷町へは、山陰線・青谷駅まで約30分、同駅から車約10分。旧佐治村へは、因美線・用瀬駅まで約30分、車約15分。車は中国道・佐用インター下車、青谷まで約2時間半。佐治まで約1時間半。
 冬の紙漉(す)き仕事は、日の出前から始まる。鳥取市青谷町の、日本海の波音も届かない山あいの集落。谷間を流れる清水はしびれるほど冷たく、ストーブにたらいを載せ、お湯で手を温めながらの作業になる。

 「寒の紙といってな。寒さが厳しく水が冷たいほどいい紙ができる」

 そう語るのは、この道約60年の長谷川寿さん(73)。漉き舟から水をくみ取り、コウゾやミツマタの繊維が均等にからみあうよう簀桁(すげた)を巧みに揺り動かす。白くとろりとした水は、ヌメヌメと光沢を帯び、漉くたびに生き物のようにはね踊り、柔らかくはじけるような音色をたてる。

 簀桁を釣ったひもは天井で竹ざおにくくられ、それがしなってきしむ。青谷町に伝わる紙漉き唄(うた)の一節にもある。《因州因幡(いなば)の 手漉きの紙は 殿の御用で ギッチョコ ギッチョコ ギッチョンチョン》

 「昔はどの家でも紙漉きをしていたから、歩いていると誰が漉きようるのかわかったもんですわ」

 簀桁に残った水を小気味よくはね上げると、キュッキュッと愛らしい音が鳴る。仕上がりの風合いの差は、この時の手首の動きや強弱のリズムによって生まれる。漉き手の個性は、音の個性となって、かつての集落はさぞかし、にぎやかな響きに包まれていたことだろう。

 書道用紙として知られた因州和紙も、時代とともに高級和紙へと需要が変わった。人によって漉き方が違うことの妙味が価値を持つ時代になった、と長谷川さんは言う。工房を訪ねれば、そんな職人の矜持(きょうじ)が耳で味わえる。

(中村正人)


 ◆因州和紙
 古くは平安時代に朝廷へ献上した記録が残るという伝統的和紙。1975年、和紙としては初めて、国の「伝統的工芸品」に指定された。今も残る産地は、04年に鳥取市に編入合併した旧青谷町と旧佐治村に集中している。明治から大正にかけて、青谷だけでも100軒を超えたが、現在は鳥取県因州和紙協同組合に34軒が参加、うち手すきのみは17軒。
 
 ◆和紙工房かみんぐさじ
 旧佐治村の伝統的な紙すきを体験できる。自分ですいた和紙は、はがきやしおりにして持ち帰ることも。山菜料理(要予約)が楽しめる食堂も併設。鳥取市佐治町福園。問い合わせは0858・89・1816。午前9時〜午後4時半。(水)と年末年始は休館。入場無料、手すき体験は1人700円。旧青谷町には、あおや和紙工房(問い合わせは0857・86・6060)もある。
 
 ◆山根和紙資料館
 全国でも珍しいという和紙の資料館。和紙でできた家具、経典、書籍など、古今東西の紙に関する資料や、紙製の生活用品など3千点以上を収蔵・展示。鳥取市青谷町山根。問い合わせは0857・86・0011。午前9時〜午後4時。(土)(日)(祝)(休)と年末年始は休館(不定休もあり問い合わせを)。無料。
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