和歌山県の南紀白浜。このすぐ近くに、とても不思議な音のする浜があります。
不ぞろいな丸い石に埋もれた海岸なのですが、波打ち際の近くまで行くと突然、これまで体験したことのない音が聞こえてくるのです。低くジュワーンと打ち寄せる波。引くときには、まるで炭酸水の泡がはじけるような響きの中で、丸い石がカラカラカラと転がります。
石の上に横になって目を閉じると、ジュン、ジュン、ジュンと右から左に移動する音が繰り返され、ふっと静かになる瞬間もあり、いくら聴いても飽きることがありません。
観光地・白浜を代表する白良(しらら)浜は、真っ白で細かな砂が広がって、確かに美しい。でも音の世界としては、一般には無名のこの浜のほうが、はるかに豊かで魅力的です。
私たちが研究している「サウンドスケープ(音の風景)」の考え方は、環境の視覚的な情報が優先される現代社会にあって、音や気配といった形にならない環境要素の重要性に焦点を当てます。そして普段は見落としがちなさまざまな問題に気づくきっかけも与えてくれるのです。
10年前、環境庁(当時)が「残したい日本の音風景100選」を企画。私も参画し、環境保全の観点から、地域のシンボルとして大切にされている音を選びました=表、地図。今回は、これ以外の場所にも足を運んでみます。視覚や味覚に偏りがちだった旅の在り方に、別の楽しみ方、旅の世界の新たな広がりを提示することができれば幸いです。
(聖心女子大教授)