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2006.1.11(水)更新  日本音紀行 もうひとつの風景

千曲川 (長野県飯山市)

藤村も描いた冬の静寂
鉄橋には風雪よけのヨシズが張られていた。時折うなりをあげる吹雪に耐え、キュッキュと雪を踏みしめ家路を急ぐ高校生=飯山市の中央橋で(撮影・上田頴人)

【交通】飯山市へは、JR長野駅から飯山線で飯山駅まで約50分。車は、上信越道・豊田飯山インターで下車し、国道10分。
 《たくあんも、菜漬けもみな凍って、かめばザクザク音がする》

 自然主義文学で名を残す島崎藤村は、エッセー「千曲川のスケッチ」の中で、信州の冬の厳しさをこう表現した。

 長野発の列車で隣り合わせたおばあさんも、同じことを言う。「お葉漬けは氷が混じって、じゃりじゃりって音するんださ。たるから出すとき、上に張った氷ば割って出すもんでね」

 雪の舞う飯山駅で降りる。藤村は作中、現在の長野市豊野町から川船に乗り、飯山で降りた時の様子を書いた。船の便が廃れた今、駅から歩いて、その千曲川を目指す。

 ざぐり、ざぐりと雪の積もる川原を歩く。湿り気の多い雪が、泥土にめり込む。やがて車道の騒音は背面に遠のき、聞こえるのは自分の足音と、呼吸の音だけになる。

 藤村がこの辺りの情景を描いたのは、ちょうど1月。《寂しく音もなく流れていた》千曲川は、90年以上の時を経てなお、目の前で無音のただなかにある。彼が宿泊したという飯山の真宗寺を訪ねた際、職員の山崎浩さん(44)が口にした言葉を思い出す。「雪が降り始めるとね、静か、というよりもう一段階、静かになるんですよ」。ここには、静けさの濃淡が存在するということか。

 雪の重みに野草が頭をたれている岸辺に立ち、感覚をとぎすますと、かすかに感じることができる。赤子の寝息のような、酒を注ぐ音のような、トクントクンという響き。千曲川の脈動は、辺りを埋め尽くす静寂の下で息づいていた。

(横内陽子)


 ◆島崎藤村と信州
 島崎藤村は1872(明治5)年、後の長野県神坂村生まれ(現在は岐阜県中津川市に編入)。9歳で上京したが、かつての恩師に招かれ、99(同32)年に長野県・小諸の小諸義塾に教師として赴任。以降、小諸で過ごした6年余の間に「千曲川のスケッチ」や、「破戒」を起稿した。
 
 ◆藤村記念館
 1955年に「島崎藤村宅跡」として長野県史跡に指定された。「嵐」「夜明け前」などの作品原稿、遺愛品、周辺資料など約6千点を所蔵する。岐阜県中津川市馬籠。午前8時半〜午後4時半(4〜10月は5時まで)。500円、小中学生250円。問い合わせは0264・59・2047。
 
 ◆小諸市立藤村記念館
 「千曲川のスケッチ」初版本や同作品の登場人物写真など、小諸市で過ごした藤村の関係資料約200点を展示。長野県小諸市丁。午前8時半〜午後5時。12〜3月中旬の(水)休館。500円、小中学生200円。問い合わせは0267・22・1130。
 
 ◆千曲川と信濃川
 河川延長367キロの日本一長い川で、流域面積も全国3位。「日本一の大河」とも。長野県内を源流にし、同県内では曲がりくねった様子から「千曲川」、新潟県境から河口までは「信濃川」と呼ばれる。
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