夜明け前の松林は、深い静けさに覆われていた。聞こえるのは、身体のなかに伝わってくる新雪を踏む音と、木の葉に積もった小さな繭型の雪の、ミシミシというささやき。
「こんな静かな朝は珍しい。日頃の行いがよっぽどいいんでしょう」と、散策に同行してくれた安井昭彦さん(67)。「風の松原に守られる人々の会」の副会長だ。
こちらは松林の音「松籟(しょうらい)」を聴きに来た身、日頃の行いはむしろ疑わしい。本音は残念だったが、日本海に背を向けて大きく傾く黒松の太い幹を見て、潮風のすさまじさを実感。彼の言葉を信じる気になった。
松原のことを、地元では「山」と呼ぶ。冬の強風に見舞われると、山の中では地鳴りのような音がする。街の中では、のどから絞り出すような音に聞こえるという。
ふいに安井さんが立ち止まった。「この辺りから、奇妙な音が出るんです。木がうめくような、子供が歓声を上げて走り回るような。誰かに声をかけられた気がして、後ろを振り向くこともある」。ほら、ああいうのが音鳴りの元ですよ、と指さす先を見ると、ニセアカシアの枝が大きく裂けている。「痕跡」は他にも点在していた。
現地を後にした翌週、寒波と豪雪が到来した。安井さんに電話すると「あの翌日、山の音がすごかった。まあ、今度はゆっくり数日かけておいで下さい」。
出合いの難しさ。それゆえ、その場その瞬間では聞こえない音に想像を巡らせる。音を訪ねる旅の妙味、とさえ思う。
(鳥越けい子)
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◆風の松原
能代海岸砂防林の愛称。約760ヘクタールにわたる日本最大級の松林で、海岸沿いに約700万本のクロマツが最大幅1キロ、総延長14キロ続く。海風や砂の被害を防ぐため、江戸中期に植栽されたのが起源。敷地内は遊歩道が整備され、森林浴やバードウオッチングなどを楽しめる。
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◆旬の味覚 能代の食と酒
【だまこ鍋】
炊きたてのご飯をすりつぶして丸めた「だまこ」を、比内地鶏や野菜と一緒に煮込み、しょうゆで味つけした鍋。きりたんぽと並んで秋田を代表する郷土料理の一つ。能代では、風の松原で採れるキシメジを入れる。
【ヤツメ貝焼(かやき)】
米代川でとれるヤツメウナギとネギ、豆腐をみそ仕立てで煮込んだ鍋。ヤツメウナギは厳寒期の貴重な栄養源として珍重されてきたが、近年は漁獲量が減少しているという。問い合わせは能代市 観光振興室(0185・89・2179)。
【地酒】
西村醸造店(TEL0185・52・3341)の特別純米酒「風の松原」(720ミリリットル、1890円)、喜久水酒造(TEL0185・52・2271)が明治時代のトンネルを使って低温熟成させた辛口吟醸「縄文 能代」(720ミリリットル、1680円)など。
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◆秋田から津軽へ 観光列車の旅
日本海沿岸を走る五能線を経由し、秋田―青森間を結ぶ観光列車「リゾートしらかみ」(全車指定席)。世界自然遺産の白神山地や温泉など見どころが多い。一部区間では、絶景ポイントで徐行運転や車内での津軽三味線の演奏も。秋田名物を詰め合わせた晩酌セット(1000円、数量限定、要予約)の車内販売が人気。3月12日までは(土)(日)(祝)に運行。問い合わせはJR東日本 秋田支社 営業課(018・831・6726)。
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