日曜午前10時。函館山のふもと、雪景色の港を見下ろす坂道で、大鐘の低い音色が聞こえた。やがて二つの小鐘が高らかにすばやいリズムを刻み、音程の違う三つの中鐘も加わって、小さい方から順に繰り返し打ち鳴らされる。大小六つの鐘による耳慣れない異国の旋律だ。
「鐘は礼拝の始まる合図。教会に来られない信者に、大事なお祈りの時間ですよ、と伝えるためのもの」
そう語るのは、両親の代からロシア正教の信徒で、旧制中学生のときからつい数年前まで鐘を打ってきた中居真行さん(80)。当初は亡命ロシア人の信徒もいて、その前で両手と足を使い楽器のように鐘を打ち分けてみせるのが誇らしかった。戦時中、鐘は軍に供出された。戦後新しいものが寄贈され、再び鐘楼に上ったときの感動は忘れないという。
地元の人たちも、親しみを込めて「ガンガン寺」と呼ぶ。1916(大正5)年の地元紙に、「一種特異の鐘の音」の「函館名物のガンガン寺」とあるから、愛称にも年季が入っている。
「ここは坂の町。天候や風向きによって鐘の音が違って聞こえる。音にも季節感があるんです」。子供の頃から教会のすぐ下に住み、喫茶店を経営する太田誠一さん(53)は教えてくれた。
異国情緒たっぷりの響きは迫力満点で、華やかなメロディーが5分間も続く。鳴りやむと、今度は耳を圧する静寂に驚かされる。余韻の続く、めまいにも似た感覚。通行人の雪を踏む音で、やっと我に返るほどだった。
(中村正人)