石畳の通りに、ノミをたたく乾いた音が流れる。道の左右の工房から漏れてくる、リズミカルな連打。耳を澄ますと、たたき方は微妙に違い、工房ごとにリズムがあるかのように聞こえてくる。
砺波平野の南端にある井波の里は、伝統的な彫刻の町だ。古くは寺社の装飾や神仏像、近年は住宅の欄間(らんま)などの工芸品から現代彫刻まで、木彫り作品を世に送り出してきた。
工房の一軒を訪ねた。木戸の音とクスノキの香り。畳の上で、年配の親方が制作途中の欄間を前に腰を据え、ノミをたたく。後ろで若い弟子たちが、仕上げの作業をしている。
工程には、全体の輪郭を彫り出す「粗彫り」と、精密に彫り込む「小彫り」、表面を削って仕上げる「仕上げ彫り」などがある。最も大きな音がする「粗彫り」は、熟達を要する親方の仕事だ。
「彫刻っちゅうのはマイナスの仕事。削り取るほど、骸骨(がいこつ)みたいに品がなくなる。若いうちは探りながら彫るのが音にも出る」。この道38年の彫刻師・前川正治さん(59)が言う。「彫り出す形が頭の中に入っとる人は迷いがないから、一発で決める。カーンと大きな音がしますよ」
厚みを均等に残すのが難しい、と職人たちは言う。木が薄くなると、彫り込む音が微妙に軽くなる。「これが聞いて分かるようになれば一人前。音が分かる職人でないと」。別の親方が、こんな言い方で道の奥深さを語っていた。
耳も研ぎ澄まして彫る。通りに満ちる槌(つち)音は、職人と木が交わす会話の音でもある。
(兼古勝史)