港からボートで5分。波間に一群の、黒いとがった背びれが見えた。ざわめく海域に近づくと、一頭のイルカが突然、バネのように体をしならせながら波をけって海上に跳ね上がり、水しぶきが舞った。
ボートを止める。イルカたちは泳ぎをやめ水中からのんびりと頭を出し、プハッーと息を吹き上げた。数分おきに繰り返される吐息が、ときに水を吸い込み鼻づまりを起こしてピーと甲高く鳴る。同じ哺乳(ほにゅう)動物なんだと改めて気づく。
天草諸島の北端にある、天草市五和(いつわ)町の通詞島(つうじしま)。この周辺の海に、約200頭のミナミハンドウイルカがすみついている。島から対岸の島原半島まで約4キロ。潮の流れが速いため定置網に適さず、素潜り漁が中心だったことが幸いした。地元の人は「根付き」のイルカと呼ぶ。
「自分らが生まれる前からイルカはおった」。島で長く漁を営んできた江上豊さん(63)は言う。「ウニを捕ろうと潜っていると、背後に気配を感じて、振り向くとイルカがこっちをじっと見よるとですよ」。魚の群れを音の反射で探すイルカの、独特の鳴き声もよく聞いた。「水の中ではキリキリカリカリ……まるで歯ぎしりのようだ」
最近、多くの観光客が島に来るのはうれしいが、増え続ける観光船がイルカ本来の暮らしを妨げないか。操船する島の漁師も悩んでいる。
江上さんはお客によく言う。「あんたが見とるのと同じように、イルカもあんたをよう見とるとよ」。一緒に共生の道を考えよう、そんな呼びかけだ。
(中村正人)