遠く海岸線の向こうから、どよめきが聞こえてくる。八戸港内の、海に突き出す岩山のあたり。近づくと、かげろうのようにゆらゆら飛び回る無数の白い影も見えてきた。
岩山の頂上に登る。そこにある神社の境内は、ウミネコが群れをなして独特の鳴き声を上げ、小学校のようなにぎやかさだ。参道脇で卵を温めるもの、縁側でイカを食べるもの、縄張り争いするもの……。喜怒哀楽の表情すら感じ取れる。
ウミネコの繁殖地として知られるここ蕪島(かぶしま)には、毎年3万羽以上が飛来し卵を産む。かつては、ウミネコは神の使い姫として地元で大事にされていた。しかし戦時中に埋め立てられて離島は陸続きになってしまい、自然環境が激変。ウミネコは、それでも島を捨てなかった。
「戦後は、食糧難から卵に手を出す者もおったらしい」。20年来、八戸市のウミネコ保護監視員を務める岡元正光さん(80)がいう。長らく、マグロ漁船の乗組員だった。「ウミネコが見えると、陸(おか)が近いぞ、これで息抜きができるって、ほっとしたもんだ」
還暦を前に船を降りてから、週の半分は神社内の監視小屋に寝泊まりする生活。親からはぐれて雨にぬれたヒナをストーブで温めたり、キツネを花火で追い払ったり……。
そんな岡元さんを自宅で待つ妻のすみ子さん(78)。「年にひと月しか戻ってこながったころさ比べれば、今は寂しくもなんともない」。庭に飛んでくるウミネコの鳴き声が、夫の達者ぶりを伝えてくれる。そう思えるのだった。
(横内陽子)