
【イラストより】ハリガネを自在に編んで,洗練された道具ができ上がっていく。
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第8回 湯豆腐杓子
 京都市中京区 |
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京都は湯豆腐が名物である。料理店やちょっとした茶屋でもおいしい湯豆腐がいただける。小ぶりの銅鍋に昆布を敷く。湯はダシでうっすら色付いている。四角く切った豆腐がたぎった湯の中でフツフツと揺れている。それを金網の湯豆腐杓子(しゃくし)ですくってポン酢でいただく。熱々で滑らかな舌触り。淡泊な味わいを堪能する。
素材や調理法もそうだが、器や小道具も味を引き立てる。金網の湯豆腐杓子を湯にくぐらせて、豆腐をすくった時の柔らかい重量感。細かい網目からスッと湯が切れて、小鉢に運ぶ間のプルプルと揺れる豆腐のつややかな白い肌を目で味わう。口に入れるまでの楽しみがある。
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金網細工は、京都の隠れた伝統工芸品である。金網の起源は奈良時代の装飾品や仏具に始まり、元禄時代には専門の職人が誕生する。鉄の針金は貴重品で、一般に普及したのは機械生産ができるようになった明治後半からだ。戦後には京都市内に五、六十軒ほどの金網店があった。焼き網、水切り網、ゴマ煎(い)り、豆腐すくい、裏ごしなどの日用品からあんどん、ロウソク立て、仁王門の金網などの大物まで需要が多かった。
京都御所から南へ延びる堺町通を竹屋町、夷川とふた筋下った通りに「辻和金網」の店がある。明るい店先に手作りの作品が並べられている。台所用品や調理用具、果物かご、花器、照明器具など。
その傍らで主人の辻善夫さん(69)が仕事をしている。砲弾型の木型に当てて編んでいるのは寺のロウソク立て。絡み合う針金を、踊るような手さばきで操って編んでいく。2本の針金をクロスさせてねじり合わせ、隣同士の針金をにじり合わせる。見る見るうちに亀甲の網目が出来上がっていく。
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湯豆腐杓子は太い針金で作った枠を、くぎを打ち付けた台にかけて細い針金を細かい亀甲に編んでいく。茶漉(ちゃこ)しは型に当てて、底を菊の花模様に編む「菊出し」から編んでいく。繊細で美しい。
「金網の細工自体は単純な作業ですが、編む感覚が自然と手の内に入っている。職人の仕事というのはそういうもんです」
辻さんがにっこり笑う。練れた人柄が作品に滲(にじ)み出ている。小さな、さりげない暮らしの道具にも、優れた職人の生き様が編み込まれている。いい道具、いい職人との出会いが、心を温かくする。
そろそろ湯豆腐が恋しい季節。湯豆腐杓子だと、きっとひと味違う。
 | | 京の風情を残した町家が並ぶ |
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