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2004.5.26(水)更新
 いとうせいこうの自己流園芸ベランダ派

いとうせいこう タイトル

第7回 ベランダーの腕試される走り梅雨
 走り梅雨のしつこさに全国のベランダー諸氏は少々意表を突かれ、鉢の表土に生えたカビなど発見しては渋い顔をし、ため息をついたのではなかろうか。おつとめご苦労さまでした。

 ある意味、この時期は1年を通して最も難しい。ベランダ園芸家の腕が問われる季節と言えるだろう。

イラスト
題字と季語イラスト・上田みゆき
 なにしろ、ついこの間までは春を謳歌(おうか)し、浮かれていたのである。それが急に雨がちになる。梅雨に備えて怠りなく気持ちを引き締めようとしている矢先に、走り梅雨になってしまう。

 面白いもので、害虫諸君は気象予報士などよりよっぽど早く走り梅雨の始まりを感知し、好きな葉を選んで斥候を出す。こちらが気づかずにいると、斥候は日々こっそりと援軍を要請しては増えていく。

 したがって我々は、それまで浮かれていた目を突然厳しく光らせ、初期段階で彼らに退去勧告を出さなければならない。ここで放っておいたら最後、害虫の大軍はあちこちの鉢に勢力を広げ、実際の梅雨までに一大帝国を築いてしまう。

 また、この時期の水やりが難しい。たとえ外が雨でも、ベランダにそれが吹き込まない以上、我々にとっては曇り同然だからだ。外が横なぐりの雨ならば、ベランダ界では小雨。

 あくまでも自分の目と肌で天候を察する我々は、おかげでご近所の冷たい視線にもめげず、雨の日にジョウロを持ち出して微妙な水やりを行うことになる。

 湿気で表土が濡(ぬ)れて見えていても、指を突っ込むと中が乾いていたりする。逆に表土だけが乾いていて、中には十分に水分が保存されていることもある。ここは観察力と勘で乗り切る以外ないのだ。

 ベランダ園芸歴わずか10年の俺(おれ)が偉そうに言うのもなんだが、コツは『緑の面積に応じて水をやる』ということだろう。葉が多ければ水をやり過ぎてもなんとか吸ってくれるが、逆はない。だから木が弱り、表土にカビが生え、害虫帝国の標的になって滅びる。

 こうして、鉢ひとつひとつの状態を迅速に判断し、水やりの技術をあますところなく発揮出来たとき、我々は大きな誇りを感じる。

 走り梅雨から梅雨まで。

 それは困難でもあり、やりがいにも満ちた季節だ。

(2004/5/26)

イラスト いとうせいこう・作家

1961年、東京生まれ。小説など活字のほか、映像、音楽、舞台など幅広い表現活動を展開しており、都会に住みながら主にベランダで植物を楽しむ「ベランダー」としても知られる。



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