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2004.6.23(水)更新
 いとうせいこうの自己流園芸ベランダ派

いとうせいこう タイトル

第11回 すぐに根がつき、鉢植えになる「ノッポ」
 「ノッポ」と呼ばれる植物が、東側ベランダの室外機上で育っている。

 学名は不明。おまけに通称も不明。実はそいつをノッポと呼ぶのは俺(おれ)だけだ。

 そもそも、3月の誕生日に仕事場で花束をもらったのだった。花瓶にいけておいた花はやがて全部しおれたが、一番後ろに立つ数本の“細くて緑色の茎がクネクネしているだけのやつ”から芽が吹いたのである。

イラスト
題字と季語イラスト・上田みゆき
 なんか、あるでしょう?近頃の花束に入ってる“細くて緑色の茎がクネクネしているだけのやつ”。カスミ草とか百合などと組み合わされがちなあれ。

 俺はやつの名前を知らないまま、そのウグイス色の新芽に魅了された。花瓶の水を取りかえ続けると、芽はやがて“クルクル巻いたような状態の細長い葉”に変化していった。

 当然その頃には、水に漬けてある部分にヒゲ根が生え始めていた。俺は細心の注意をもって水替えを続行し、大きめの鉢とそれを置く場所を準備して、根の十分な生育を待った。

 依然として、やつの正体はわからなかったものの、4月第2週に待望の鉢植え化が行われた。

 やつは“クルクル巻いたような状態の細長い葉”を次第にまっすぐに伸ばし始め、あたかも数年前からそこにいました的な風格をベランダに漂わせたものだ。

 もらった花束から鉢を作ろうとするケチな根性は、全ベランダー共通のものだろう。わらしべ長者的というか、無から有を生みたがるというか、カスピ海ヨーグルトの生産にも似たお得な感じが我々を刺激する。

 で、たいていは失敗するのである。花屋だってそうそう簡単には既得権をゆずれないから、ヒゲ根の生えるような植物を花束には入れないのだ。たぶん。

 ところが、その隙(すき)を突いて、やつが花束界に登場した。というか、俺が花束界の隙を突いた。あれは根がつく。すぐ鉢植えになる!

 ただ、いかんせん名前がわからないのである。“細くて緑色の茎がクネクネしているだけのやつ”では、いまひとつ愛しにくい。

 ここはひとつ、俺にならってノッポと呼んではどうだろう。花束をもらう際には「ノッポを入れてくれ」と指定するのだ。ノッポは根がつく。鉢植えになる!

(2004/6/23)

イラスト いとうせいこう・作家

1961年、東京生まれ。小説など活字のほか、映像、音楽、舞台など幅広い表現活動を展開しており、都会に住みながら主にベランダで植物を楽しむ「ベランダー」としても知られる。



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