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2004.9.29(水)更新
 いとうせいこうの自己流園芸ベランダ派

いとうせいこう タイトル

第24回 ダンゴムシたちの勇敢な旅
 今年のブドウはうまい。あまりにうまいので、俺(おれ)は早速食べ終えたブドウの種を植えたのである。

 まあ、実が成るはずもない。それがベランダ園芸の限界だ。しかし、だからといって、うまいブドウの種をむざむざ捨てるのもシャクである。で、植えた。

イラスト
題字と季語イラスト・上田みゆき
 芽が出るまでは日に当てない方がよかろうと、アルミホイルをかぶせてベランダに出し、ちょいちょい水をやった。すると、途端に小バエが発生した。

 やつらは一体どこから現れるのだろうか。湿り気が過ぎると、必ず飛び出してくるのである。小さな体でマンション高層階まで飛んでくるとは考えにくい。あらかじめ土にひそんで、出現の時を待っているのか。とにかくフワフワ飛び回って、実にうっとうしい。

 俺は小バエを必死で追いはらい、鉢を室内に取りこむことにした。小バエ発生は水のやり過ぎを示すサインだから、俺は厳戒態勢を敷き、常に目の届く場所に鉢を置こうとしたのだ。

 ところが、その翌日のことである。珍しく早起きした俺は、床に置いた鉢から数匹のダンゴムシが這(は)い出しているのを発見した。

 出てきて欲しいのはブドウの芽なのだが、鉢からは虫ばかりがわくのである。

 見れば都合5匹のダンゴムシは、朝の光の中、各自のペースで東へ東へと大移動を試みていた。

 ダンゴムシはむしろ暗さを好むと思っていた俺は、その奇妙な長旅に感心し、彼らと同じく東からの太陽を浴びながらしばし立ち尽くした。

 ちっとも動かない1匹がいたので近づいてみると、あお向けになって死んでいた。旅の途中でなぜか息絶えたのである。命をかけてまで東に移動する切迫した事情が、どうやらダンゴムシにはあったらしい。

 生き残った4匹はもぞもぞと動き続け、ついに全員が東側ベランダの前までたどり着いた。そこからは段があるので移動は無理だ。

 俺は窓を開け放し、死んだ者を含めて5匹を外に放り出した。旅の手伝いをしてやりたくなったのだ。

 だが、そこは人間の身勝手さである。俺は東側ベランダに彼らを放ったのではなく、その外に投げ出したのである。つまり宙空に。

 いくら勇敢なる旅が感動的でも、俺はダンゴムシなどに用はない。

(2004/9/29)

イラスト いとうせいこう・作家

1961年、東京生まれ。小説など活字のほか、映像、音楽、舞台など幅広い表現活動を展開しており、都会に住みながら主にベランダで植物を楽しむ「ベランダー」としても知られる。


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