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2004.12.1(水)更新
 いとうせいこうの自己流園芸ベランダ派

いとうせいこう タイトル

第32回 サザンカをめぐる一進一退
 今年は少し気温が高いままだが、秋は明らかに深まりきって、冬がすぐそこに来ているのがわかる。

 当然俺(おれ)は冬に備えて、先月の初めから準備万端怠りがなかった。まずサザンカの鉢を見つけ、迷わず買っておいたのである。

イラスト
題字と季語イラスト・上田みゆき
 生命が止まったようになる冬。ベランダは静けさに満ち、“耐え忍ぶ”という言葉にぴったりの状況になる。そこに花が欲しい。

 だから、俺はサザンカに飛びついたのだった。冬の訪れとともに咲く花をベランダに置きたかったのだ。

 たぶん、日陰か半日陰で大丈夫だろうと思った。なにしろ『サザンカの宿』というくらいだ。歌詞はまったく思い出せなかったが、多少の暗さにも耐えるはずだ、と俺は決めつけた。あくまでも、演歌自体が持つイメージである。

 しかも、買ったばかりの鉢は移動で疲れている。冒頭にも書いたように、今年は気温が高い。日光に当て過ぎるのは危険だろう。

 そこで俺はサザンカを北のベランダに置いた。すると、先月の後半には細い枝の先に蕾(つぼみ)がついた。

 さあ、そこからがハラハラの連続である。蕾はなかなかふくらまない。葉が何枚か落ちる。あわてて図鑑を見ると「日向(ひなた)か半日陰」とあった。日光を嫌う植物ではなかったのだ。『サザンカの宿』にはさんさんと陽光がさしていたらしい。そんな明るい歌だったか?

 ともかく、切迫した局面で鉢の位置を変えるタイミングが難しかった。一応蕾はついているのだ。サザンカは自らが置かれた条件の中で最善を尽くしているはずで、事態を急変させれば即座に枯れてしまう。

 俺は毎日、サザンカの様子を確認した。時おり葉が減った。その度、東側に移したくなるのをじっとこらえるうち、蕾の下にも花芽がつき始めたのを知った。

 一進一退であった。1ミリも鉢を動かさないままの一進一退。水やりに注意しつつ、蕾が死んでいないかを指先で確かめる毎日。

 一度置いてしまった場所が、その鉢にとっての絶対的な住み処(か)になるという意味では、庭同然である。鉢はベランダのコンクリートに根を張っていると言ってもいい。それは抜けない。

 サザンカをめぐる一進一退は今日も続いている。

(2004/12/1)

イラスト いとうせいこう・作家

1961年、東京生まれ。小説など活字のほか、映像、音楽、舞台など幅広い表現活動を展開しており、都会に住みながら主にベランダで植物を楽しむ「ベランダー」としても知られる。


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