懸賞サイトは朝日マリオン・コム-懸賞 プレゼント、懸賞 応募、懸賞 旅行
2005.1.5(水)更新
 いとうせいこうの自己流園芸ベランダ派

いとうせいこう タイトル

第35回 「初忘れ」のおめでたい克服
 あけました。

 さて、この数年、正月がやって来る度に、俺(おれ)の初忘れは決まってヒヤシンスなのであった。

 ある年は球根をしまったまま出し忘れ、またある年は水を張った専用容器に入れたまま冷蔵庫内に置き忘れてしまうのである。

イラスト
題字と季語イラスト・上田みゆき
 特に後者の初忘れのダメージは大きい。なぜなら、御存知(ごぞんじ)のようにヒヤシンスを冷蔵庫で冷やすのは、出した時との温度差によって奴(やつ)をだまくらかし、正月に咲かせる手段だからだ。

 つまり、俺の住む浅草が初詣で客でにぎわう三が日、目的を忘れてヒヤシンスを冷やし続けているのはまことに愚かしい行為であり、気づいた時はもう遅い。

 あわてて冷蔵庫から出したところで、七草粥(がゆ)を食い終えてもまだ咲かないのである。ではなんのためにヒヤシンスは豆腐や豚肉の横で耐え忍んでいたのか。あるいは逆に、年末年始用に買いだめた食材の貴重なスペースを、なぜヒヤシンスに奪われていたのか。俺は自分を呪うことになる。

 だが、今年はめでたい。俺は昨年末、羽子板市で盛り上がる浅草寺境内で鉢植え屋が露店を出しているのを見逃さず、さらにひと鉢3個ずつのヒヤシンスが植え込まれた鉢を素早く発見したのである。すでに花穂さえついていた。一瞬、赤と紫の2種類があると言われて迷ったが、初忘れのダメージを免れることが出来た喜びで結局は両方を購入し、一応交渉も欠かさず100円値引きしてもらった。実にめでたい話だ。

 俺は赤い花が咲くと言われた方をキッチンのカウンターに置き、紫を東側ベランダに配置した。室内と室外で花期がどう異なるかを実験し、花を楽しむ期間をより長くする作戦だ。

 今年はついている。すでに室内のヒヤシンスは、あの蝋(ろう)細工めいた小さな花をびっしりと赤く開かせ、次に紫が開花へのスタートを切るだろうことは確実である。俺はベランダーとしての恒例の初忘れを克服し、巧みにヒヤシンスを咲き分けさせたのだ!

 ただ、ボケの様子がおかしい。昨年の冬の終わりに咲いたボケが知らぬ間に枯れ死んでいるらしいのだ。

 世話のし忘れが、どうやら俺の初忘れになりそうな2005年新春である。

(2005/1/5)

イラスト いとうせいこう・作家

1961年、東京生まれ。小説など活字のほか、映像、音楽、舞台など幅広い表現活動を展開しており、都会に住みながら主にベランダで植物を楽しむ「ベランダー」としても知られる。


>>バックナンバー

第34回 師の教えに背いた罰 (2004/12/15)
第33回 師と選んだシャクナゲは (2004/12/8)
第32回 サザンカをめぐる一進一退 (2004/12/1)
第31回 ベランダー路上派に愛を込めて (2004/11/24)
第30回 苦手は“苞が花に見える植物”! (2004/11/17)
第29回 皆さん、お便りありがとう! (2004/11/10)
第28回 リンドウと俺の奇跡的な関係 (2004/10/27)
第27回 世紀の植物、「頭の良くなる花」! (2004/10/20)
第26回 ようやく落ち着いたアジサイ (2004/10/13)
第25回 四方八方に巻き付いたゴーヤの最期 (2004/10/6)
第24回 ダンゴムシたちの勇敢な旅 (2004/9/29)
第23回 大切な一夜に咲いた月下美人 (2004/9/22)
第22回 秋のタイムはウキウキ式土器 (2004/9/15)
第21回 天に向かって伸びない呪い (2004/9/8)
第20回 突然思い出した懐かしいイチジク! (2004/9/1)
第19回 ペットに近いツル性植物との日々 (2004/8/25)
第18回 花は血の流れない生贄である (2004/8/11)
第17回 収穫という名のアイデンティティー (2004/8/4)
第16回 朝顔のない、劣悪な都会の夏 (2004/7/28)
第15回 水だけやっても脱水症状 (2004/7/21)
第14回 咲かないダチュラと許せない虫 (2004/7/14)
第13回 枯れゆくスパルタ学園の新入生たち (2004/7/7)
第12回 小鳥たちの無自覚なプレゼント (2004/6/30)
第11回 すぐに根がつき、鉢植えになる「ノッポ」  (2004/6/23)
第10回 同志よ! ベランダに好物件などない! (2004/6/16)
第9回 植木市で珍品ゲット 俺は陶酔した (2004/6/9)
第8回 痛恨の不注意、アマリリスの墓標 (2004/6/2)
第7回 ベランダーの腕試される走り梅雨 (2004/5/26)
第6回 二つのマツリカの二つのはかなさ (2004/5/19)
第5回 母が勧める剪定でいい花咲いた (2004/5/12)
第4回 藤の機嫌を直した引っ越し (2004/4/28)
第3回 「特売品」は素早い対応が肝心なのだ (2004/4/21)
第2回 桜の花は下を向いて咲くのだ (2004/4/14)
第1回 「ベランダー」に福音の春が来た (2004/4/7)


サイトマップ | 会社案内 | 朝日マリオン・コムとは | 姉妹メディア | 会員規約 | 個人情報・著作権
asahi-mullion.comに掲載の記事や情報、写真の無断転載を禁じます。すべての内容は日本の著作権法並びに国際条約により保護されています。
Copyright 2005 Asahi Mullion 21. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission.