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2005.1.19(水)更新
 いとうせいこうの自己流園芸ベランダ派

いとうせいこう タイトル

第37回 1月咲きの男
 石垣島で緋寒桜(ひかんざくら)が咲いたというニュースを見て、すかさずベランダに飛び出した俺(おれ)は正しかった。買っておいた梅の花が一輪、ほころんでいたのである。

 接ぎ木をして紅白の花が咲くように仕立てた梅の鉢もまた、石垣島で桜を開かせたのと同じ変化によって刺激されていたのだ。

イラスト
題字と季語イラスト・上田みゆき
 園芸家以外の人種は冬、特に1月を植物的不毛の季節と見なしがちである。ところが、実際は冬至を境にあちこちで花の準備が始まっている。人間は北風に首をすくめているのに、植物はか細い幹に樹液をみなぎらせ、運動を始めるのだ。

 こうした実感と事実の差が、ベランダ園芸家を悩ませる。以前から警鐘を鳴らしていることなのだが、我々はこの時期、必ず鉢を買い過ぎるのである。

 実感は危機意識を高め、何でもいいから花さえ咲いていれば買いたいと思わせる。事実はこれに反して花ざかりである。というか、花を商う側も園芸家の錯覚に気づいていて、年々冬の植物を充実させやがる。

 俺はすでに普通のスーパーで370円の激安ボケを見つけて財布を開き、さらに植物コーナーがあるいつものスーパーに徒歩で遠征して、黄色い花のセツブンソウとピンクネコヤナギを入手した。ちなみに自転車を使わないのは、年始から自らに歩数計着用を義務づけたからである。現在の俺のモットーは“歩数さえ稼げればどんな遠出もいとわない”というものだ。

 おかげで方々を歩き回って見れば、花屋の店先でラナンキュラスが咲き、桜草がクロッカスが桃が椿(つばき)が開花している。日々の寒さが身にしみる人間という動物は、冬が深まるのを本能的におそれ、今その鉢を買っておかなければもう二度と花々とは出会えないだろうと思いつめる。

 そして春、我々は増えた鉢の総面積に震え上がることになる。ベランダの3分の1が冬咲きの鉢だというような、悲惨な結果が待っているのである。

 けれど、今年からはもう後悔しない。決めたのだ。

 1月咲きの花が俺をそれほど喜ばせるのなら、俺は1月咲きの男なのである。バランスがなんだ、四季がどうした。存分に1月咲きの鉢を集めればいいじゃないか。買う。俺は買う。

(2005/1/19)

イラスト いとうせいこう・作家

1961年、東京生まれ。小説など活字のほか、映像、音楽、舞台など幅広い表現活動を展開しており、都会に住みながら主にベランダで植物を楽しむ「ベランダー」としても知られる。


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