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2005.3.16(水)更新
 いとうせいこうの自己流園芸ベランダ派

いとうせいこう タイトル

第45回 欲を罰されたブロッコリー収穫
 ブロッコリーを収穫いたしました。東側ベランダのプランターで栽培を続けていた、たった一株のブロッコリー。そいつが、どう見ても食べ頃ぎりぎりになっていたのである。

イラスト
題字と季語イラスト・上田みゆき
 杖(つえ)ほどの太さの茎がすくすく伸び、頂上にあのミクロの森のような花蕾(からい)をつけてから2カ月間。俺(おれ)はやつをいつ収穫すべきか、日々怠りなく迷い続けてきた。

 俺は可能な限り、やつを巨大化させたかった。が、待ち過ぎれば、ぎっしり詰まった緑色の細い蕾(つぼみ)が長くなって、先端がすべて花開いてしまう。開けば菜の花と変わらない食感になる。

 というわけで、大きさかブロッコリーらしさかという重大な選択を、俺はこれまでの間、時々刻々迫られていたのであった。

 もう少し我慢すればもっと大きくなる、いやもう蕾が開いてしまいそうだ、待て待てここまで来たからにはじっと耐えよう……といった非常につましい自問自答が繰り返されたわけだ。

 そして、自動的に答えは出たのである。花蕾の先がちょっと開きかけてしまったからであった。

 ブロッコリーの巨大化を狙っていた俺は、結局若干の菜の花化を受け入れざるを得なくなり、いやおうもなくナイフを取り出して急いで収穫を済ませた。

 運の悪いことに、俺はその前日から歯の治療を始めていた。左上の奥歯が痛み、かぶせ物を取るはめにおちいっていたのである。少しでも何かが触れれば激しく痛むため、俺の食生活はお粥(かゆ)に統一されていた。

 そこにブロッコリーの収穫日が当たってしまったのであった。仕方なく、俺の夕飯はお粥とブロッコリーのゆでたやつという組み合わせになった。

 俺の夢はそんな禅寺みたいな献立でブロッコリーを食べることではなかったのである。ぷっくりふくらんだブロッコリーをゆで、レタスか何かと混ぜてドレッシングをかけ、メーンがハンバーグあたり。明るく温かい食卓の、かけがえのない一品というやつだ。

 それが、実際はメーンが粥なのであった。しかも俺は顔を右に傾けてしか物が食べられないのである。左側にブロッコリーが行かないよう注意して、俺はおそるおそる噛(か)んでみた。

 菜の花の味だけがした。

(2005/3/16)

イラスト いとうせいこう・作家

1961年、東京生まれ。小説など活字のほか、映像、音楽、舞台など幅広い表現活動を展開しており、都会に住みながら主にベランダで植物を楽しむ「ベランダー」としても知られる。


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