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2005.10.12(水)更新
 いとうせいこうの自己流園芸ベランダ派

いとうせいこう タイトル

第73回 姫スイレンの呪いの使者、水草
 姫スイレンとメダカ共存せず、と知ってから3カ月ばかりたつ。ご記憶の方もいらっしゃるだろうが、水槽で両者を育てたばっかりにメダカたちが不可解な連続死を遂げたのだった。そこで、俺(おれ)は姫スイレンを水槽から分離したのだ。

 不幸中の幸いであったのは、実はあの時、もうひとつの金魚鉢でメダカの稚魚を育てていたことだった。成魚に近づいたのはたった2匹だったが、俺はその新しい生命を姫スイレンの呪いが解けた水槽に移し、再び大事に飼い始めた。

イラスト
題字と季語イラスト・上田みゆき
 ところが、姫スイレンはなおもかよわき魚たちを呪っていたのだった。今度は姫スイレンの鉢に浮いていた水草が問題を引き起こしてくれたのだ。

 米粒ほどもない水草を俺は甘く見ており、これも植物のひとつ≠ニ歓迎までして水槽の中に残した。緑鮮やかな水草は当初、ふわふわと散らばって大変風情があった。その下を泳ぐメダカたちも涼しげで、俺は大満足していた。

 ところが、ある時期から水草は幾何級数的に増え始め、みるみるうちに水面を完全に覆ったのだった。

 水槽の側面には苔(こけ)が生え出していたので、メダカの生存を確認するには上からのぞくしかない。しかし、そこをびっしりと水草で覆われてしまったのである。

 ということで、中がまるで見えなくなった。メダカが生きているのかどうか、まったくわからないまま、俺は数日に一度ずつエサを水草の上にまき、棒でぐるぐるかき回した。

 エサが沈んでいくのは何とか見えるのだが、肝心のメダカの様子が知れない。もしメダカが絶滅していたら、当然エサやりはまるで意味のない行為であった。というか、見えもしないメダカを飼っていること自体、もう無意味である。

 その間、水草はさらに激しく分裂し、ついに二重に重なって絨毯(じゅうたん)みたいに厚ぼったくなった。もはや不気味きわまりなかった。

 我慢の限界であった。俺はついに水草の徹底除去を決意し、今日水槽を掃除したところだ。ありがたいことに、2カ月ほど姿を見ていなかったメダカは発育不良ながら生きていた。

 姫スイレンとメダカ共存せず、は俺にとって絶対的な真実である。水草を使者にまでして、姫スイレンはメダカを呪い続けたのだ。

(2005/10/12)

イラスト いとうせいこう・作家

1961年、東京生まれ。小説など活字のほか、映像、音楽、舞台など幅広い表現活動を展開しており、都会に住みながら主にベランダで植物を楽しむ「ベランダー」としても知られる。


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