オリーブの樹(き)を育てて、もう何年になるだろう。
ともかく、俺(おれ)はずいぶんと長くオリーブと付き合っているのである。
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| 題字と季語イラスト・上田みゆき |
暖かい場所で育つ印象の濃い植物だが、毎年丈夫に越冬を重ね、ある年などは直径数ミリの白い花を二つだけ咲かせた。
残念ながら実には至らなかったけれど、俺には花だけでも十分であった。何より常緑であるのがたくましく、松ぼっくりの一片に似た小ぶりの葉は、一度としてしおれたことがない。
というわけで、いまや丈が2メートルを超えたオリーブは、俺のお気に入りなのだ。
ところが数日前、その大好きなオリーブの葉が虫に食われているのを発見したのである。
まだ被害は全体の三分の一くらいなのだが、虫は葉の表面をランダムに削り取るように食い、透明な組織だけを残していた。ふざけた食事のマナーである。
俺は激しい怒りに燃え、風をものともせずに殺虫剤を吹きつけまくった。逆風のためにかなりの量が俺にかかったが、気にしている場合ではなかった。
少しすると、小さな青虫がだらんと垂れてきた。糸を出してオリーブにぶら下がっている。薄いグリーン色を帯びた虫であった。
我を忘れた俺はその害虫めがけて再び殺虫剤をまいた。噴射の勢いを受け、虫はぶらぶらと揺れた。
そこで迷いが生じた。俺は小学生の頃、将来は昆虫博士になろうと固く心に決めていた人間であった。したがって、いまだに虫への興味が消え去らない。
その害虫がじきサナギになり、蛾(が)か何かに変態していく様子が俺の脳裏に去来した。つまり俺はオリーブを取るか、虫の成長を観察するかという大問題の前に立たされたのである。
このあたりがベランダーとして甘い部分だとは重々わかっていた。しかし、相手は見たこともない生命体なのだ。知った虫ならどうとでもするが、知らないとなると好奇心がわく。
俺は折衷案を自分に提案した。その提案に、俺はもろ手をあげて賛成した。そして、まだ薬のかかっていない樹の先端を折り取って、それを隔離したのである。樹の先には虫が一匹いた。
オリーブを救い、なおかつ虫を育ててみる。俺のベランダ生活はこうして脱線していくのであった。