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2004.6.4(金)更新
 

おかみさん、私ね、名前つけたの。
今日はお七夜なんだもの。松太郎って...

「初蕾」

お民(京野ことみ=手前)をいたわるお力(大空真弓)
お民(京野ことみ=手前)
をいたわるお力(大空真弓)
 若い娘が父親のない子を産んで、1人で名前を付ける気持ちはどんなだろう。「私ね」と女主人のお力に言うお民の場合、その底抜けに明るい声から母となった女の幸せ、たくましさが響いてくる。

 伊勢を舞台に、父なし児を産んだものの自分で育てられなかった茶屋女が、周りの計らいでそれとは知らず我が子の乳母となって、自分も成長していく時代劇である。

 京野ことみのお民、大空真弓のお力。息子の不始末で藩の重役を返上して人里離れて暮らす梶井良左衛門、はま夫婦が宇津井健と池内淳子。捨て子を育てるためにお民を雇い、しつけだけでなく、読み書きまで仕込んでいく2人だ。

 店の客だった相手の男が出奔、行く末を案じたお民は子供をおろそうと階段を飛び降りるが果たせない。そんな彼女が、歌を歌いながら1人子供をあやしている姿がいとおしい。京野の演じる蓮(はす)っ葉で凶暴性まで帯びたお民が、自分たちの子供を簡単に殺してしまう最近の若い親と重なるからなおさらだ。

 2幕。熱を出した小太郎(実はお民の子)を三日三晩抱き続ける。ふらふらのお民から子供を抱き取ったはまが「小太郎はもう、うめ(梶井家での呼び名)がいないと駄目ですね」という。感極まって泣くお民。

 まだ粗野なお民と厳しいはまの心が通い合う一瞬が感動的だ。

(八月一日 教宏)

   =芸術座 6月30日まで=


原作は山本周五郎の同名の短編。橋田寿賀子の脚本で73年、テレビドラマ化、75年、石井ふく子演出で舞台化。舞台では長山藍子がお民を持ち役にしてきた。

=2004年6月3日朝日新聞(東京本社版)
夕刊マリオンから

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