マリオン・コムロゴ
2004.8.26(木)更新
 

何、安穏におくべきや、おのれ、おめおめ添わそうか。
思えば、思えば口惜しい

 「東海道四谷怪談」

「東海道四谷怪談」
勘九郎のお岩と橋之助の伊右衛門
 夏の芝居といえば怪談物。ドロドロの太鼓の音で出てくる歌舞伎の幽霊は多いが、「四谷怪談」のお岩は別格で「お岩さん」とさん付けで親しまれ、かつ怖がられてきた。

 この芝居は「忠臣蔵」の義士とは逆の道を歩んだ不忠者たちの人間像と共に、江戸庶民の生活や風俗を活写した鶴屋南北の傑作。

 怪談だから、亡霊のお岩が提灯(ちょうちん)から抜け出したり、壁の中に消えて行く見せ場もあるが最大の見どころは「伊右衛門浪宅の場」。

 お岩は、父を殺したのが夫の伊右衛門とも知らず、敵を討ってほしいばかりに復縁して耐えている。

 気心の知れた勘九郎のお岩に橋之助の伊右衛門。

 「常から邪険な伊右衛門殿、男の子を生んだとて、さして喜ぶ様子もなく」と赤子をあやしている姿がけなげで、哀れだ。

 めまいを起こして隣の伊藤家から届いた薬を押し頂いて飲む。血の道の薬のはずが面相を変える毒薬だった。孫娘がほれた伊右衛門を婿に迎えるため、お岩を醜くして夫婦を別れさせようと仕組んだのだった。

 伊右衛門の虐待、鏡でこれが自分の顔と気付いた時の悲劇、抜け落ちる髪、したたる血。凄惨(せいさん)極まりない展開の中「何、安穏におくべきや」と言うお岩に貞淑な武家女房の面影はない。哀れで、可哀想で、怖い。

(八月一日 教宏)

  =歌舞伎座 8月28日まで=


歌舞伎座が、当時売り出し中の勘九郎や現三津五郎ら若手で8月の歌舞伎興行を復活して15年。平成5年からは昼夜2部制を3部制にして人気が続いている。

=2004年8月26日朝日新聞(東京本社版)
夕刊マリオンから

asahi-mullion.comトップページへ
サイトマップ | 会社案内 | 広告募集 | 問い合わせ | プライバシー | 著作権 | リンク
asahi-mullion.comに掲載の記事や情報、写真の無断転載を禁じます。すべての内容は日本の著作権法並びに国際条約により保護されています。
Copyright 2004 Asahi Mullion 21. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission.