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「一本刀土俵入」
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福助のお蔦
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序幕「取手の宿」の場。
通りがかりに土地のやくざにからまれた文無しの相撲取り茂兵衛を、2階から見ていた安孫子屋の酌婦お蔦(つた)が「ちょいと取的さん」と呼び止めて、互いの身の上話になる。
上州、駒形の母のお墓の前で横綱の土俵入りをして見せたいという茂兵衛。「お袋は満足に暮らしちゃいないに決まっている」と泣きながら故郷越中八尾の小原節を歌うお蔦。
黙って行きかける茂兵衛を「利根川の渡し船は16だよ」と止めて「あたしの身上(しんしょう)有りったけやるから、どこかで何か食べてお行き」と巾着(きんちゃく)を投げてやる。その上、櫛(くし)、簪(かんざし)までやって、「その替わり、きっとだよ、立派なお相撲さんになっておくれね」と見送る。
通う心が温かい名場面である。
茂兵衛は勘九郎、お蔦が福助。2人は73年前、「一本刀土俵入」を最初に演じた六代目菊五郎と五代目福助の孫で、今月の「五世中村福助七十年祭」追善の出し物である。
軒先に山桜が咲く大詰め。
旅人姿の茂兵衛が、追われるお蔦親子を助けて逃し、言う。広く親しまれてきた名セリフである。
「ああ、お蔦さん。棒切れを振り回してする茂兵衛のこれが、10年前に櫛、簪、巾着ぐるみ意見をもらった姐(ねえ)さんに、せめて、見てもらう駒形のしがねえ姿の、横綱の土俵入りでござんす」。
(八月一日 教宏)
=歌舞伎座 9月26日まで=
◆作者の長谷川伸は3歳で実母と生き別れ、人生の辛酸をなめて成長した。その体験が「瞼(まぶた)の母」を生み、世間からはじき出された茂兵衛やお蔦にも投影されている。
=2004年9月16日朝日新聞(東京本社版) 夕刊マリオンから
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