マリオン・コムロゴ
2004.10.14(木)更新
 

天で一本つけてくんねえ

雪暮夜入谷畦道

雪暮夜入谷畦道
  菊五郎の片岡直次郎
 雪が降りしきる入谷村の蕎麦(そば)屋。追われている御家人の片岡直次郎が辺りをうかがった後、さっと中に入るなり酒を注文する。蕎麦好き、酒好きにはたまらない一幕だ。

 題名は「ゆきのゆうべいりやのあぜみち」と読む。幕末の江戸の風俗を活写した黙阿弥の傑作である。

 亭主が「天は山になりました」と天ぷらが売り切れたことを告げると「なけりゃ、ただのかけでいい」と火をもらい、股火鉢をしながら「田んぼ道の吹きっさらしで、すっかり縮み上がってしまった」。

 膳(ぜん)が届くとまず、お猪口(ちょこ)に燗(かん)酒をつぎ、浮いているごみを箸(はし)でポイとはねてくいと飲む。

 すまねえが熱くしてくんねえ」と頼んで、ほおかむりをほどいて熱い蕎麦をすすり込む。

 蕎麦は、のど越しで味わうのが江戸の粋な食べ方。この芝居を最初に演じて、当たり役にした五代目菊五郎は、直次郎の食べ方を際立たせるため、先に蕎麦を食べる目明かし2人には「かむように食べること」と注文を出したそうだ。

 蕎麦も酒もうまそうに見えるのは、直次郎が男前でいなせで、格好いいせいもある。今月の直次郎は、七代目になる菊五郎。

 続く場面は直次郎が恋人の女郎三千歳にあい、別れを告げる「大口屋寮」。「一日逢(あ)わねば千日の 思いに私ゃ煩(わず)ろうて」の清元もしびれる。

(八月一日 教宏)

  =歌舞伎座 10月26日まで=


五代目尾上菊五郎 幕末から明治にかけて九代目団十郎、初代左団次と共に団・菊・左と並び称された名優。家の芸「新古演劇十種」を選定、実子の六代目が完成させた。

=2004年10月14日朝日新聞(東京本社版)
夕刊マリオンから

asahi-mullion.comトップページへ
サイトマップ | 会社案内 | 広告募集 | 問い合わせ | プライバシー | 著作権 | リンク
asahi-mullion.comに掲載の記事や情報、写真の無断転載を禁じます。すべての内容は日本の著作権法並びに国際条約により保護されています。
Copyright 2004 Asahi Mullion 21. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission.