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雪暮夜入谷畦道
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菊五郎の片岡直次郎
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雪が降りしきる入谷村の蕎麦(そば)屋。追われている御家人の片岡直次郎が辺りをうかがった後、さっと中に入るなり酒を注文する。蕎麦好き、酒好きにはたまらない一幕だ。
題名は「ゆきのゆうべいりやのあぜみち」と読む。幕末の江戸の風俗を活写した黙阿弥の傑作である。
亭主が「天は山になりました」と天ぷらが売り切れたことを告げると「なけりゃ、ただのかけでいい」と火をもらい、股火鉢をしながら「田んぼ道の吹きっさらしで、すっかり縮み上がってしまった」。
膳(ぜん)が届くとまず、お猪口(ちょこ)に燗(かん)酒をつぎ、浮いているごみを箸(はし)でポイとはねてくいと飲む。
すまねえが熱くしてくんねえ」と頼んで、ほおかむりをほどいて熱い蕎麦をすすり込む。
蕎麦は、のど越しで味わうのが江戸の粋な食べ方。この芝居を最初に演じて、当たり役にした五代目菊五郎は、直次郎の食べ方を際立たせるため、先に蕎麦を食べる目明かし2人には「かむように食べること」と注文を出したそうだ。
蕎麦も酒もうまそうに見えるのは、直次郎が男前でいなせで、格好いいせいもある。今月の直次郎は、七代目になる菊五郎。
続く場面は直次郎が恋人の女郎三千歳にあい、別れを告げる「大口屋寮」。「一日逢(あ)わねば千日の 思いに私ゃ煩(わず)ろうて」の清元もしびれる。
(八月一日 教宏)
=歌舞伎座 10月26日まで=
◆五代目尾上菊五郎 幕末から明治にかけて九代目団十郎、初代左団次と共に団・菊・左と並び称された名優。家の芸「新古演劇十種」を選定、実子の六代目が完成させた。
=2004年10月14日朝日新聞(東京本社版) 夕刊マリオンから
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