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2005.2.3(木)更新
 

思いのほか祝言の、杯するようになって、
嬉しかったも、たった半時

「野崎村」

「野崎村」
 芝翫のお光、鴈治郎の久松、雀右衛門の
 お染、富十郎の久作(左から)
 お光は、久松が大坂から戻ったら今夜祝言させる、と継父の久作に言われ「こんなことなら、今朝あたり、髪も結っておこうもの」と言いながら、浮き浮きとして待っていた。

 だが、帰ってきた許婚(いいなずけ)の久松は1人ではなかった。奉公先の油屋の娘、お染が後を追ってきたのだ。2人は既に深い仲。山家屋との縁談が決まっているお染は、久松と添えなければ死ぬ覚悟でいる。その時は久松も一緒のつもりだ。

 それを知った久作は、お夏清十郎を引き合いに意見するが、お光もその一部始終を聞いていた。

 2人を納得させた久作は、祝言を急ごうとお光を呼ぶ。明日をも知れぬ老妻を安心させたいのだ。だが、現れたお光は髪を切って袈裟(けさ)を掛けた尼姿だった。そして「嬉(うれ)しかったも、たった半時」のセリフになる。

 愛するが故に恋を譲る田舎娘、死を賭けて恋を成就しようとする都会の金持ちの娘。そして「そこらあたりに心もつかず、蕾(つぼみ)の花を散らしてのけたは、みんな俺(おれ)が鈍ながら」とわびる義理の親。

 芝翫のお光、富十郎の久作、雀右衛門のお染、鴈治郎の久松、田之助のお染の母お常。人間国宝が勢ぞろいする大舞台。駕籠(かご)と舟で別々に大坂へ帰る久松とお染を交互に見送った後、堪(こら)え切れずに「トトさーん」と久作にすがるお光が哀れだ。

(八月一日 教宏)

  =歌舞伎座 2月25日まで=


近松半二ほかの人形浄瑠璃「新版歌祭文(しんぱんうたざいもん)」の上巻の最後が「野崎村」。初演は安永9年(1780)で、お染久松心中物の集大成とされる。

=2005年2月3日朝日新聞(東京本社版)
夕刊マリオンから

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