|
「恋しぐれ」
|
|
三田佳子の時雨と榎木孝明の於菟吉
|
歌舞伎の脚本を書き、文芸雑誌「女人芸術」を創刊して林芙美子らを世に出した長谷川時雨の半生記の中で彼女が自分のことをいう言葉だ。ジェームス三木の脚本・演出。
大正5年の夕刻、時雨が経営する鶴見の料亭・花香苑(はなかえん)の離れ。「あんた」というのは、時雨を心配して訪ねてきた仕事仲間でもある歌舞伎の六代目尾上菊五郎である。
「もったいねぇじゃねぇか」と言う菊五郎に、「知らざぁいって聞かせやしょう」と弁天小僧の声色を使い「あんたは天下の六代目、こっちはしがない芝居書き」と、時雨のセリフが始まる。
色気あふれる三田佳子の時雨、六代目はかくもあったと思わせる菅野菜保之の菊五郎。2人が何でもないセリフを粒立たせて、信頼しあう大人の男女の世界を垣間見(かいまみ)せる。
菊五郎が去るとすぐ、庭に隠れていた三上於菟吉に「しゃぼん玉じゃありません。生まれながらのダイヤです」と言い寄られて、あっさり陥落してしまうのがちょっとおかしい。於菟吉は榎木孝明。
それから21年。愛人の元で脳血栓で倒れた於菟吉に「だって私には、あなたしかいない」と泣くまでの時雨の激しく生きる姿が描かれる。
売れっ子作家になる於菟吉。その印税で「女人芸術」を創刊、時局の中での廃刊。一方で於菟吉の女関係に振り回され続ける年上の妻の姿だ。
(八月一日 教宏)
=明治座 3月28日まで=
◆
長谷川時雨は、女の文壇の大御所≠ニいわれた。この舞台にも林芙美子のほか、神近市子、吉屋信子、平林たい子、直木三十五、宇野浩二、広津和郎らが登場する。
=2005年3月10日朝日新聞(東京本社版) 夕刊マリオンから
|