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浅草・花街界隈(1)

 盛り場は活気があっておもしろいが、散歩していて、心が迷子になるのは「さびれ場」の町である。
 浅草は、日本有数の観光地であると同時に、かなり「さびれ場度」の高い町でもある。
 平日など、浅草寺の仲見世周辺以外はひっそり閑としていることが多い。
 すっかり時代に取り残されたような町の姿を見ることができる。これがまたいい。
 昼間から煮込みの鍋が湯気を立て、ホッピーの看板が客の気を引く。
 それでも言問通りの浅草寺側の区域は、やはり「観光地」の臭(にお)いがする。観光地特有の盛り場と、さびれ場、この二様、それぞれの魅力がある。

「豆かん」が食べたい。暑い時にひやりと口に入り、程良い甘さが魅力とお客の途切れることがない店内
(写真・横田正大)
 それが言問通りを渡ると浅草はがぜん粋筋の町となる。
 ある日、この界隈(かいわい)を案内していると、「外国の女性のお客さんを連れてゆける居酒屋はないだろうか」と聞かれた。
 瞬間的に、酒膳(しゅぜん)・一文を思い浮かべた。和風でくつろげる店づくり、お金がわりの一文、五文、十文の木札。そして全国各地の銘酒。
 細かなところまで趣向がこらされ、こういう店なら外国からの女性でなくたって喜ぶ。

 一方、一見なんの変哲もない居酒屋ながら、料理の味、洒脱(しゃだつ)な接客、そしてなによりその料金の割安感で、ピカ一の店がある。
 浅草寺病院の、言問通りをはさんだ向かい、居酒屋・さくまがその店。

 この下町の名店・さくまの裏手、左側の横丁に、車を乗りつけてでも買いに来る、という甘味の梅むらがある。
 梅むらは、みつ豆、あんみつももちろん人気だが、「この店に来たら豆かんでしょう」と主張する人を何人も知っている。
 豆と寒天だけを黒みつで食べる。なんとも粋な食べ物である。  

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坂崎 重盛 (エッセイスト・題字も)



2002年7月31日付 朝日新聞(東京本社)「マリオン」から
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