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向島(2)見番通りから桜橋

 花街の共通点のひとつは人気の甘味屋があることである。

 向島には、見番近くに、和菓子の青柳正家がある。ここの菊最中は2段重ねの餡(あん)で有名だが、今の季節は葛(くず)ざくらか水ようかんか。

 見番先の角には、女性誌などでよく紹介される生ジュースのカドがある。
 店の前のセットメニューをながめていたら、夏姿の着物の半玉さんが、ペットボトルを口にしたまま急ぎ足で通り過ぎた。お姐(ねえ)さんに見つかったらなんと言われるか。

「おだんご、うれしいな」。お店から出てきた女の子がうれしそうにスキップしていた
(写真・横田正大)
 カドを左に曲がって左の裏路地にも料亭や居酒屋が点在する。料亭などの店構えは京都の祇園あたりにいる錯覚をおこす。

 この界隈(かいわい)、ぐるぐる廻(めぐ)り歩いても30分とかからない。足袋屋あり、生麸(なまふ)屋あり、ふぐ屋あり、旅荘あり、かと思うと小さな家内工場も隣接する。

 時間が止まったままのような非現実な空間が、現実に存在する。残暑の陽(ひ)ざしのせいもあってか白日夢の中の町のようである。

 見番通りをさらに先に進むと弘福寺の唐風の立派な山門の前を通り、長命寺に至る。
 長命寺−−甘党なら、「あの、たっぷりと持ち重りのする桜餅」と目を輝かせることだろうし、文学史に関心のある人ならば境内の成島柳北の顔の彫られた石碑や、芭蕉の「いざさらば雪見にころぶ所まで」の句碑をなでたくなることだろう。

 そして言問団子。平安時代の歌人・在原業平が隅田川で詠んだ都鳥の歌にちなんでつけられたという由来はあまりにも有名。
 言問団子というから言問橋のたもとにでも、と思いこんではいけない。桜餅も言問団子も桜橋のたもとにある。

 さて、とここは思案のしどころ。さらに足を延ばして向島百花園まで歩くか、あるいは出直すか。
 そういえば来月、百花園ではもう月見の会である。秋は忍び寄っている。

坂崎 重盛 (エッセイスト・題字も)



2002年8月28日付 朝日新聞(東京本社)「マリオン」から
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