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神田神保町(3)レトロ喫茶探訪

 神保町をたっぷり歩いて、本を買って、そのまますぐ帰路につける人の体力には脱帽する。
 しかし並の体力しかない私は、本さがしの後は「戦利品」をかかえて、いそいそと、ごひいきの喫茶店に(といっても昼間からビールも飲める店に)もぐり込む。

 神保町にはお茶とケーキの柏水堂とか、ビールのランチョンなど、右党左党向けの老舗(しにせ)もあるが、その路地そのものが戦後文学史しているようなエリアを紹介せずにはいられない。

 
戦後風景がそのまま残る裏通り。店員さんがお昼を食べに路地を歩いていた
(写真・横田正大)

 その路地の名は−−ない。

 地下鉄、神保町駅のA7の出口を出ると、道路の反対側に岩波ホールを目にすることができる。

 その出口をすぐ左に折れる細い路地がある。その路地に歩を進めて、右手をながめれば、あじさいやひいらぎ、あるいは夏の名残のほおずきの籠(かご)がぶら下げられたさぼうる2さぼうるを認めることができる。
 私は、もっぱら本店のさぼうるの方を利用する。いかにも戦後の山小屋風インテリアが心を落ち着かせてくれる。

 さぼうるがちょっと混んでいるな、と思えば迷わずに路地の先に進んでゆく。

 ちょっと先にリオという喫茶店があり、その左横のこれまた細い路地に入り込み、すぐ右のラドリオの席につく。
 この店も古い。しばらく前まではお店のウエートレスさんも皆、中年で、BGMも古いシャンソンやタンゴが流れていた。

 さて、その先が、ラドリオとともに古き神保町の象徴的存在のミロンガ・ヌオーバ
 今はコーヒーと世界のビールの店だが、客の大半はこの店のアルゼンチンタンゴのコレクションを聞きにこの店にやってくる。
 買った本の包みを解き、ビールを飲みながら、バンドネオンに聞きほれる。

 保存地区に指定したいくらいの一画である。

→ 神田神保町(4)すずらん通り へ

坂崎 重盛 (エッセイスト・題字も)



2002年9月18日付 朝日新聞(東京本社)「マリオン」から
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