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連雀町辺り(1)

 神保町を後にして、向かうは、神田・連雀町。現在の地番でいえば、神田淡路町と須田町の一角に、時代劇のシーンに出てきても似合いそうな古町がある。

 そば通の東京人ならば(ははん、あの辺りか)と察しがつくと思うが、そう、名店、神田まつやかんだやぶそばのある連雀町。

戦災を免れ昭和初期そのままの古町。あんこう鍋のいせ源の看板が人目を引く。中央は竹むら
(写真・横田正大)

 駿河台下の三省堂から靖国通りを淡路町に向かって歩く。道の両側はスキー、スポーツ用品の店がズラーッと並ぶ。
 進行方向右側に、ブックブラザー源喜堂書店がある。デザイナーやカメラマンがよく通う古書店である。

 その少し先、左側に東京の紳士御用達の平和堂靴店がある。私の父の代は帽子は銀座のトラヤ、靴は神田の平和堂といわれていた。
 この平和堂でHeiwadoと書かれた中敷きのある靴を買ったときは、自分も一人前の男になったような、晴れがましい気分になったものである。
 で、平和堂のウインドーをのぞきながら連雀町をめざす。ものの5分も歩けば万世橋に至る道の左側に、まずたいていは人が並んでいる店の前に出る。

 池波正太郎、山口瞳氏ら文人が愛した下町そば屋の典型、神田まつやである。

 この店に並ばずに入ろうと思うのなら夕方前の3時とか4時をねらうしかない、と私は思っている。
 人が働いている時間、(申し訳ないなあ)と思いつつ、塩うにをつまみにぬる燗(かん)で飲む酒は格別である。

 さて、このまつやの裏側こそは、下町の食のメッカともいいたくなるエリアなのだ。
 1度行ったら忘れられなくなる風景の一角。あんこう鍋のいせ源。鳥鍋のぼたん。粟(あわ)ぜんざいや揚げまんじゅうの竹むら、そしてかんだやぶそば−−これらの店のいずれもが古い木造建て、あるいは和風づくりで、まさに時間が逆もどりしたかのような町並みである。

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坂崎 重盛 (エッセイスト・題字も)



2002年10月2日付 朝日新聞(東京本社)「マリオン」から
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