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日本橋人形町(2)

 昼休み後の2時過ぎならば、そう並ばなくても、と思ったのだが、甘かった。
 いや、甘酒横丁の柳屋のたい焼のことである。
 以前だったら、(120円のたい焼を買うために30分も1時間も待つとなると、ずいぶん人件費が高くつくおやつだなあ)と思ったりもしたが、今は、その情熱をかえって頼もしく思う。不況の世でも下町っ子の食い気は健在である。

辻村寿三郎の作品が展示されている「館」。女性の見学が絶えない。水曜休み
(写真・横田正大)

 柳屋の、店内から連なって並ぶ主婦、おばさんたちの姿をながめていたら、ジュサブロー館に行ってみようという気になった。
 もちろん、人形師・辻村寿三郎の美術館である。

 人形町の交差点から小伝馬町方面へ、小諸そば角を左折すぐ右手がジュサブロー館。交差点から1分ほど。
 個人の住宅か小さなカフェを改造したような館には、投げ生けされたカサブランカの香りが立ちこめ、シャンソンが流れる。

 そして、不思議な気配を発しつつ、そこに控えるジュサブローの人形たち。
 来館者は私以外はすべて女性。人形の襟元や帯などを食い入るように見入っている。

 人形町に人形館。いいですねえ、こういう趣向。

 ジュサブロー館を出て、人形町の交差点方面に戻る。信号を渡ってすぐ右に、喫茶店ロンがある。
 この店のウインドーの前には、つい立ち止まってしまう。もう本当に、戦後の喫茶店の雰囲気なのだ。
 フルーツパフェやチョコレートサンデー(!)など、懐かしのサンプルがずらりと陳列されている。

 さて、このロンから水天宮方面にかけては下町の甘味の宝庫。
 柳屋手前の虎家喜(とらやき)の玉英堂、ニッキの香りも高き黄金芋の寿堂、下町甘味屋の正統派・初音、そして水天宮前交差点の人形焼の重盛永信堂−−安産の神の水天宮詣での帰りか、はたまた浜町・明治座観劇の後か、甘党にとっては気もそぞろとなる町である。

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坂崎 重盛 (エッセイスト・題字も)



2002年10月30日付 朝日新聞(東京本社)「マリオン」から
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