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日本橋人形町(3)

 人形町は洋食の町である。洋食は、子供にも喜ばれるが社長さんにも似合う。また芸者衆が食べていても絵になるだろう。

 人形町には老舗(しにせ)だけでも4軒の洋食屋がある。そのいずれもがガイドブックにも登場する人気店。
 洋食キラク、芳味亭、小春軒、来福亭−−どの店も下町ならではの店構え。

 
評判の洋食屋キラクは人形町駅A3出口を出てすぐ右。ランチタイムは長い列が出来る
(写真・横田正大)

 商都であり、またどこかに花柳界の華やぎが残る町だからこそ、これだけの洋食屋が繁盛してきたのではなかろうか。

 それならば、この町の恩恵を存分に味わってみよう、この老舗の4軒を、気の向くままに巡り歩いてみよう、といったプランを思いつくのも私だけではあるまい。

 まずは洋食キラク。人気はなんといってもビーフカツ。高温のラードで揚げた柔らかな歯ごたえと味で昼時はいつも行列ができる。
 この店でビールでも飲みつつ、と思うのならば昼は遠慮して夕方の5時の開店をめざしてゆくしかない。私はそうしている。

 芳味亭は洋食屋というよりは「和風・仏料理店」といいたい味。
 しかし、木造2階建てのお座敷でお箸(はし)、とくるからこちらは余計な気取りなどなく、自慢のビーフシチューやカニコロッケの味に集中できる。

 来福亭と小春軒は鶏料理の玉ひでをはさむように建っている。2軒とも白いのれんに店の名が染められた懐かしい構え。

 小春軒はメニューが豊富だ。いわゆる普通の洋食の他に鮭(さけ)やカジキマグロなどの料理が加わる。
 しかし私は秋になったら、やはりカキフライだ。

 来福亭は、1階は細長いテーブルが二つ。明治37年の創業から生き抜いてきた洋食屋である。
 ここで客と店主の、「また大きなビルが建って昔からの知り合いがどんどん引っ越しちゃってねえ」といった会話を聞きながらもおいしいメンチを食べた。

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坂崎 重盛 (エッセイスト・題字も)



2002年11月6日付 朝日新聞(東京本社)「マリオン」から
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