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日本橋人形町(4)

 人形町に、芸者新道、あるいは小菊通りと呼ばれた、いかにも小粋な路地があるのはご存じだろうか。
 芸者新道――は花柳界のある町なら珍しくもない名だろうが(現在の神楽坂にもある)、小菊通りとは。

 これは女優の花柳小菊さんの家が、この路地にあったことから生まれた。

 
つるべ落としの秋の宵。よし梅の前の路地に店の人と客の声が響いた
(写真・横田正大)

 人形町通りから大観音寺脇の路地を入ると、すぐ右手に魚河岸料理のよし梅、そして店売りのよし梅別館がある。その先の道を横切ると、ここは京都の祇園か先斗町か、と思わせる路地となる。この道沿いに日本料理のきく家があり、その先に、これまた粋な店構えのよし梅芳町亭がある。

 よし梅へは、ずい分前から通っていて、座敷でねぎま鍋やえびしんじょをつまみに小宴に興じたり、1人、2人のときは、カウンターでの酒を楽しんだりしてきた。しばらくして、このよし梅の手作りの総菜や酒肴(しゅこう)を売る店が、別館としてできたのを知った。

 ところが、この土地の者ではないビジターの悲しさ、このよし梅別館の先、道を横切った路地に面して、話には聞いていたきく家や、花柳小菊の家を修復して開いたという芳町亭があったとは知らなかった。

 もっとも、きく家は大衆的な店とはいいがたいので(今夜はちょっと気張ってみるか)という気分か、しかるべき人と一緒の時でなければ入れないだろう。

 きく家の店構えもいいが、芳町亭の建物は、登録有形文化財という。
 そういえば、よし梅の建物も、もと芸者置屋を改築したものという。さすが芳町の花柳界でにぎわった人形町である。

 ひいきの店の行き帰り、その時のふとした気分で、先の路地を入ってゆく。すると噂(うわさ)には聞いていた店や、見惚(みほ)れるばかりの建物と出っくわす。町歩きの喜びの一つである。

 この人形町には、そんな路地や横丁がある。いや、いまならまだ、ある。

坂崎 重盛 (エッセイスト・題字も)



2002年11月13日付 朝日新聞(東京本社)「マリオン」から
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