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根岸(1)金杉通り

 この町の人ならばともかく、他所(よそ)からの町歩きとなると、ここ根岸は相当、散歩難易度の高い町である。
 手ごわい町なのだ。しかし、それだけに、この界隈(かいわい)の細部までを知りはじめると、この町の魅力にとりつかれることとなる。

 では、なぜ難易度が高い町なのか、また、どこが手ごわいのか。

   
古い商家が並ぶ金杉通り。店内をのぞくと昔ながらの商品ケースがなつかしい
(写真・横田正大)

 まず、根岸界隈といえばJRでは当然、鴬谷駅が近い。改札口は元三島神社がある北口と凌雲橋のある南口の2カ所あるが、どちらも駅前広場という印象のスペースはない。

 まるで私鉄の町中の小さな駅のようなたたずまい。

 しかも北口は駅の周辺はラブホテルが林立。南口はすぐに橋となって、なにか、戦後の場末風景がそのまま居すわってしまったような雰囲気。
 そして線路際の路地に迷い込めば、明るいうちから客引きの女性が立っている、という「異界」の環境。

 これではとても散歩気分どころの話ではない、と思われても仕方がない。

 しかし、この根岸には古き良き時代の下町の姿が、奇跡的に残っている。

 駅南口を出て凌雲橋を、下の幾本もの線路を見下ろしながら渡る。その先の広い道が言問通り。信号を渡って右に少し行くとみずほ銀行がある。その角を左折すると目指す金杉通りに入る。
 この金杉通り沿いこそは下町の歴史的遺産が立ち並ぶ一角なのだ。

 私が、なんの予備知識もなく、たまたま、夕暮れどき、この町並みの前に行き当たったときは、なにか別次元の街角に迷い込んでしまった気がしたものだ。
 どっしりとした瓦屋根の明治、大正時代からの商家が、今でも商いをしている。  たとえば、吉田ロウソク店、提灯(ちょうちん)の五十嵐――。

 根岸界隈の散歩は、このエリアから始めたい。その先には迷路のような魅力的路地が待ちかまえている。

→ 根岸(2) 柳通り へ

坂崎 重盛 (エッセイスト・題字も)



2002年11月20日付 朝日新聞(東京本社)「マリオン」から
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